
靄がかった空の下、純白の衣装を纏った女性たちが雪原に列をなして歩く光景は、どこまでも白く、幻想的だ。表紙となった八幡平市の「平笠裸参り」を写した一枚をはじめ、89編のフォトエッセイからなる本書のほとんどの写真は自ら撮影した。朝日新聞記者でルポライターの三浦英之さんは、元々カメラマン志望。「本当は『ナショナル・ジオグラフィック』が第一志望でした」と笑う。
「初めて岩手に降り立ったのは、2002年の春でした。盛岡駅の駅舎を出ると、目の前に岩手山がドーンと聳え、ところどころ桜が咲いていた。『ああ、ここは日本で一番美しい場所だろうな』と直感しました。盛岡総局に移り、ここに暮らすようになって一層、その感覚が強くなっています。これまで110カ国ほどを旅しましたが、世界でここを超えるような美しい場所を知りません」
断言できる理由は、雪国ならではの厳しい環境にある。
「岩手は、季節のコントラストがとてもハッキリしています。写真では黒がカチッと決まると、ほかの色が映えるように、暗く厳しい冬があるから春や秋の鮮やかさが際立つ。そして、寒く不自由な時間が長いことで、独特の民間信仰や伝統文化が残っているのだと思います」
東日本大震災の被災地やアフリカなどを題材に、丹念な取材で社会の実相に迫る数々のノンフィクションを世に送り出してきた。今作は大胆なタイトルに驚くが、「これまでの作品とは地続き」と話す通り、一冊を通じて炙り出されるのは、あくまで岩手県の実相だ。
「この本には、わんこそばも、冷麺も出てきません。僕が惹かれるのは、ガイドブックに載らない空白や、無名の人たちの日々の営みです。たとえば遠野に『飛龍山の湯』というカーナビでも辿り着けない秘湯があります。おばあさんが毎日、朝からお湯を入れて待っていて、入浴料は“お気持ち”。まるで『まんが日本昔ばなし』です(笑)。思い返せば2011年3月以降、僕は悲しい写真しか撮ってこなかった。ここではレンズを向けることが楽しくて、とても愛おしい」

三浦さんとこの地を繋ぐものがもう一つある。生まれ故郷の岩手を「イーハトーブ」と呼んで愛した、宮沢賢治だ。
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