3つの闇をえぐる渾身のルポ
新聞社のアフリカ特派員だった著者のSNSに、とある情報がもたらされた。1970年代にコンゴで鉱山開発にあたった日本企業の社員たちが、現地の女性との間に子供を作り、その子供たちが日本人医師と看護師により毒殺されていたというのである。にわかに信じがたい話だが、さらに信じられないことに、この話はフランスのテレビ局に取材され、毒殺疑惑もふくめて事実として世界中に配信されていた。眩暈を催す衝撃をうけた著者は日本人残留児たちのもとを一人一人訪ねはじめる。
タイトルに〈太陽〉が冠され、コンラッドの『闇の奥』への言及があることからもわかるようにテーマは光と闇だ。この骨太のルポルタージュは、3つの闇が複雑に絡みあうようにして進展する。
一つは『闇の奥』の闇、つまりアフリカの闇である。アフリカの歴史は欧米諸国の奴隷貿易の対象となった悲劇の歴史だ。下手に地下資源が豊かに眠るだけに地に足をつけた産業が育たず、今も利権をめぐって紛争と汚職と暴力と搾取がたえない。そうしたアフリカの闇である。
二つ目はジャーナリズムの闇だ。残留児の疑惑はフランスのテレビ局だけでなく、その後、英BBCも報道した。著者は取材で、日本人残留児が存在するのは事実だが、毒殺のほうは根も葉もない噂に過ぎなかったことを突きとめるのだが、問題は、なぜこのような噂レベルの情報がフランスや英国の報道機関によって事実として報道されたのかだ。ここには事実認定をめぐる日欧の価値観の違いがある。私たちが事実として信じる〈間違いの無さ〉には、どうやら深い裂け目があるらしい。
最後の闇は日本経済の闇である。戦後の高度成長をささえたのは九州や北海道などの石炭産業だったが、石炭から石油へエネルギー政策が転換するなかで炭坑労働者たちは仕事にあぶれる。コンゴで子を作った若者たちが、こうした国の政策転換の流れのなかで生みだされた労働者であったならば、彼らが残した残留児はまさにこの国の鬼っ子である。
これはコンゴにかぎった話ではない。資源がないこの国では戦前の満州から現代の原発にいたるまで、ずっとおなじ問題がつきまとってきた。そしてこの構造の上に今の日本人の暮らしはある。私たちが享受する大量生産大量消費社会の底で耳をすますと、その暗がりでは、コンゴの残留児たちの「父に会いたい」という悲痛な叫びがこだましているのである。
いくつもの闇が覆いかぶさるなか、まさぐるようにしてその深みへさらに入りこんでゆくと、でもそこには希望という名の光がある。
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