安部譲二 稀代のモテ男

山田 詠美 作家
ライフ 読書 ライフスタイル

日本航空の客室乗務員として勤務し、暴力団員として有罪判決を受け、100万部超のベストセラーを上梓する……安部譲二(1937〜2019)の素顔を山田詠美氏が綴る。

 1986年、元ヤクザの刑務所服役中の体験記『塀の中の懲りない面々』を出版してベストセラー作家になった安部譲二さんと、85年に、『ベッドタイムアイズ』という初めて書いた小説でデビューした私の付き合いは、安部さんが亡くなるまでの30年以上の間、続いた。

 出会って親しくなるまでの経緯(いきさつ)や、安部さんに「親友」と呼ばれて照れていた私の心情、そもそもは良家の子息であった彼の出自と、後のヤクザとしての風情のギャップが醸し出す魅力などについては、2人の共著という形で出した対談集の文庫に追悼文として載せたので、ここでは、はぶく。

 安部さんのことを思い出していると、こぼれ落ちていた記憶が次々と甦って来て止まらない。そんな中から忘れがたいエピソードのひとつを書き記してみたい。

安部譲二 Ⓒ文藝春秋

 まだ昭和の終わりの頃だったが、大手出版社が発行している男性向け週刊誌のパーティが都心のホテルの大広間で開かれた。刊行何十周年だかを祝う、それはそれはゴージャスな宴で、各界の有名人も多数出席していた。まさに、時は、バブル。

 そんなセレブリティだらけの場所に、私が招待されたのは、その雑誌にエッセイを連載していたというそれだけの理由だったが、一緒に連れて行った女友達は大喜び。私の名など知る由もないスポーツ選手や俳優さんたちに向かって、友人ですと挨拶をしたりして大興奮。そこには、あの長嶋茂雄氏もいらしたが、当然、一介の物書きの女など知らないまま、あやふやな笑いを浮かべて握手をしてくださった。いい人!(と、ここまで書いたら、突然の訃報が……R.I.P.以外の言葉がない)

 ひとだかりの向こうに安部さんがいた。周囲より頭ひとつ分、背の高い、タキシード姿。すごい! 堅気じゃない格好良さ! 日活映画かよ……と女友達が言って溜息をついた。

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source : 文藝春秋 2025年8月号

genre : ライフ 読書 ライフスタイル