若い頃のコミカルな老け役で人気を集め、独特の存在感で数々の映画やドラマに出演した樹木希林(1943〜2018)。30年にわたって親交のあった服飾デザイナーの遠藤勝義氏が意外な一面を語る。
希林さんは好奇心旺盛で、妙なことを知りたがるところがありました。たとえば、高級車の持ち主。一緒に歩いていると「あれは〇〇さんのロールス・ロイス」という具合に次々と教えてくれました。誰のものかわからない高級車が駐車してあると、持ち主が戻るまで路上でじっと待つんです。
「ああいうクルマに乗るのはどんな人か、見届けたいのよ」と話していたので、俳優としての人間観察だったかもしれません。
希林さんと知り合ったのは1980年代半ば。私が映画用に作った女優さんの洋服を、希林さんがポスターでご覧になって連絡をくれたのです。私のブティックは希林さんの自宅や事務所と近く、お嬢さんの也哉子ちゃんとうちの娘が友だちであったことも縁で、週に一度ぐらいフラッと店へ訪ねてくるようになりました。
「ムッシュはいろんな芸能人にお洋服を作ってるけど、すごく嫌だった人もいるでしょ?」

あるとき希林さんに訊かれました。相手が返事に窮するような鋭い質問が得意な方でした。何か答えなければと思って、とっさにある女優さんの名前を挙げました。その方の映画で衣装を担当したとき、監督と本人のOKが出ていたデザインを完成間際に引っ繰り返されたことがあったのです。希林さんは「へぇ、そんなことがあったの」と言ったきりでしたが、1年ほどたった頃、突然その女優さんを店に連れてきた。もうビックリです。
「こういうことはちゃんと解決しておかないと。ほら、あなた謝りなさい」
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