こう言うと歳がバレてしまいますが、昨年、デビュー50周年を迎えました。芸能界とは無縁で、演技など何も知らないただの高校2年生が“となりの美代ちゃん”と親しんでいただくようになって、はや半世紀。そのきっかけとなった日のことを今でもよく覚えています。
16歳のとき、芸能界入りに反対する両親に一度切りのチャンスと、ドラマ「時間ですよ」のオーディションを受けることを許してもらいました。2万5000人の中から合格を手にすると、翌日から家の電話は取材の申し込みでひっきりなしに鳴り響き、何かが大きく動き出したことを感じました。
デビュー作で共演させてもらった樹木希林さんとは、実はこの会場ですでに顔を合わせていました。当時、大変な人気を博していたドラマの新シリーズのオーディションとあって、出演していた希林さんも審査員に名を連ねていたのです。
その日から希林さんは私の師であり、そして生涯の友人となりました。なぜ、亡くなるまでずっと私と付き合ってくれたのだろう、と自問することもあるのですが、一緒にいて面白いと感じてくれて、お互いの毒が響き合うのを楽しんでくれていたのだと思います。
希林さんからはいつも「普通でいなさい」と言われました。最初はなぜそんなことを言うのかピンと来ませんでしたが、今ならよくわかります。テレビドラマできれいなシルクのブラウスを着た女性が洗い物や料理をしているシーンを見かけることがあります。でも、実際に毎日、家事をしている人だったら、そんな格好はしないはず。「普通でいないと、普通の役ができないでしょ」ということだったんです。本人は個性的で唯一無二の演技をするのに、そんな希林さんの言葉にはとても説得力がありました。
細眉が流行った頃、眉を整えていると、「なんでそんなことするの!」と怒られたこともありました。眉はその人なりの表情を作ってくれるものなんだから、と。
生まれて初めて台本をもらったことが嬉しくて、自分のセリフにピンクの蛍光ペンを引いて覚えようとする私に希林さんは、「やめなさい。芝居は人のセリフがあって成り立つものなんだから」と言ってくれました。それ以来、台本には一切、書き込みをしていません。
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