死を受け入れて生を全うした人の言葉は重い
昨年9月に女優の樹木希林さんが75歳で亡くなりました。私は年齢だけで言えば、彼女より上ですが、彼女の「極上の生き方」には、憧れに似た、尊敬の気持ちを抱きます。
希林さんと私の接点は、それほど多くはありません。仕事の関係で何度かすれ違うことはあっても、挨拶をする程度。私が永六輔さんと同じ事務所にいた頃は、事務所の社長と仲が良く、希林さんが事務所に遊びにきていましたが、そういう時も私が御一緒することはありませんでした。
一昨年の10にチャンスがめぐってきました。私が所属する日本ペンクラブが毎年行っている〈ふるさとと文学〉というフォーラムを「川端康成の伊豆」をテーマに開催することになり、希林さんにも川端の『掌の小説』の一篇を朗読してもらうことになったのです。この時、初めてお話しする機会に恵まれました。
希林さんは、マネージャーなどを連れず、1人で電車を乗り継いで、川端康成が『伊豆の踊子』を執筆した伊豆市まで来られました。
その時の希林さんの印象は、「全く波が立たない水面」のようでした。普通の人にはない「静寂」が漂っていて、それは他の誰からも感じたことのないものだったんです。私は「ああ、素敵な人だな」とその時思いました。
何とも言えない静けさ
希林さんは2005年に乳がんを患って手術をされ、13年に全身がんであることを公表します。長くがんとともに生きる日々を経て、単なる諦観ではなく、徐々に死を自分の中に取り入れて、仲良くなってしまったような印象をもちました。何とも言えない、優しく人を包み込む静けさが漂っていたんです。
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source : 文藝春秋 2019年3月号