独裁者追放への抵抗、新学長は半年で交代。今なお残る「組織の淀み」の元凶
独裁で知られた女帝が追放され、経営刷新したはずの名門、東京女子医科大学の混乱がおさまらない。
言うまでもなく混乱の元凶は、理事長だった岩本絹子による放漫経営である。とりわけ彼女の背任事件は世間の耳目を集めた。
岩本は2018年7月から20年2月にかけ、「彌生記念教育棟」「巴研究教育棟」という2つの新校舎棟建設工事を巡り、大学の経営統括部次長だった側近の森洋美に命じ、一級建築士の松丸典義にアドバイザー料の名目で多額の報酬を支払ってきた。大学施設の建築工事を悪用した実態のない報酬は計37回、大学の損害は2億8000万円におよび、警視庁は今年1月、彼女の逮捕に踏み切った。岩本は建築士に報酬を支払ったように見せかけ、それを自らの懐にキックバックさせていたという。彼女のがめつさがクローズアップされたものである。
おまけに東京女子医大では、理事会の正式な承認を経てアドバイザー料を支払ってきたというから、世間は呆気にとられた。一般企業にたとえたら、社長の不正を重役連中が知ってなお見過ごしてきたケースだ。むろん経理担当者も詳細を把握していたが、役員の了解があるのでスルーしてきたわけである。ワンマン経営者が私腹を肥やす古典的な背任事件といえる。事件の疑惑は週刊東洋経済や週刊文春が報じ、2020年頃から燻り続けてきた。岩本理事長体制下の歪(いびつ)な学校経営に対し、警視庁が捜査の重い腰を上げたかっこうである。
だが、これで騒動が収束したわけではない。巨額の脱税事件で有罪判決を受けたワンマン理事長の去った日本大学と同じように、東京女子医大もまた、今なお揺れ動いている。いまだ組織のガバナンスが機能せずに迷走し、今年4月には、就任したばかりの学長の山中寿が退任して三谷昌平に交代した。そもそも独裁理事長の追放、摘発にいたる経緯は、一筋縄にいかず、それが今も尾を引いている。事件から今にいたる舞台裏を覗くと、大学組織の淀みがくっきり浮かぶ。
「七人衆」が抱いた危機感
まずは理事長の背任事件を簡単に振り返ってみよう。事件が明るみに出る背景には、大学幹部職員の大きな働きがあった。わけても心臓血管外科教授の新浪博をはじめとする7人のドクターたちが、いち早く岩本体制のおかしさに気づき、大学改革の必要性を訴えてきた。彼らは「東京女子医科大学病院有志代表」を名乗り、学内で「有志七人衆」と呼ばれた。サントリーホールディングス会長の新浪剛史の実弟である新浪は、その中心人物だ。新浪本人に聞いた。
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