16歳、ユーミンに興奮した日

久住 昌之 漫画家・音楽家
ライフ 昭和史 音楽 ライフスタイル 歴史

 ボクが今までで一番ワクワクしたのは、たぶん16歳、高校1年生の時のことだ。

 都立高校の帰りに、高校のあった仙川の喫茶店で、荒井由実(のちの松任谷由実)のニューアルバム「MISSLIM」を聴いた。その店は2階にあり、1階がレコード店だった。通りを見下ろすガラス張りで、明るい店だった。

 荒井由実のファーストアルバムはすでに聴いて知っていた。でもリアルタイムではなかった。ロックバンドのプロコルハルムの「青い影」を真似たような「ひこうき雲」という曲がいい曲だった。

久住昌之氏(本人提供)

 ボクは友達の影響で、当時聴く音楽は同級生より少しませていて、中学生の時は既に日本のロックバンドはっぴいえんどを「かっこいい」と思っていた。でもクラスの女の子はそういうレコードを持っているボクを「クスミ君てユニークな感じ」とか言っていた。要するにこういう音楽はマイナーなものなんだと思っていた。実際売れてはいなかった。

 同時期、ボクは漫画誌「ガロ」も読んでいて、それもまたマイナーな漫画だと自覚していた。でもつげ義春や林静一や安西水丸を本当に心からイイと思っていた。

 高校生になると、洋楽もロック一辺倒(邦楽ははっぴいえんど)からジャズやソウルも聴くようになった。もちろんトップテンに入っているような音楽ではないが。

 そういう頃に出たばかりの「MISSLIM」が、1曲目からその店に流れたのだ。「生まれた街で」。このイントロが流れ始めた瞬間「わ、なんか新しい!」と感じた。音像に空間があった。見たらカウンターのところにジャケットが飾ってある。モノクロ写真で、ピアノの横にユーミンが座っているだけのシンプルなジャケット。

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source : 文藝春秋 2025年9月号

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