2019年末、僕らは「孤独のグルメ」大晦日スペシャルの撮影の為、韓国釜山にいた。福岡出身の僕にとって、どこよりも近い異国のグルメは目を見張るほど美味しく、同じ近海の幸でも食文化の違いでこうも変わるのかと今更ながら驚いていた。来年はオリンピックもあって、ますます隣国との行き来は烈しくなること間違い無い。プライベートでも博多への墓参りのついでに寄るか、などと夢想していたら、突然、僕の担当のメイクさんが発熱で倒れた。午後の撮影中、口数が減ったなとは思っていたのだ。実は出国前に、専属のスタイリストさんがインフルエンザでダウンして韓国ロケに同行出来なくなってしまったという経緯がある。僕ら演者とメイクさんとスタイリストさんは「密」な関係にある。濃厚接触も甚だしい環境でスタンバイするのが日常だ。どうも出国前の撮影時に感染したらしい。となると僕に伝染(うつ)るのも時間の問題かと思われた。明日一日釜山市内でロケをして明後日福岡へ帰国という日程なんだが、いかんせん雲行きが怪しい。現地の病院でインフルエンザと診断されたメイクさんは、発熱が引くまで出国出来ないと告げられたと言う。焦った。ここで足止めを食うと国内のロケも残っているから放送に間に合わない可能性がある。「紅白」と「ガキ使」の裏とはいえ、この番組の出演者は凡そ僕ひとりなのだ。翌日、なんとか釜山ロケを夕方までに終え、福岡行きの最終便に飛び乗った。その足で中洲にある夜間診療所で感染予防の為のタミフルを処方してもらい、ギリギリなんとか発症は免れて事なきを得た。メイクさんも無事帰国出来、笑い話になったという、そういう文脈の年末。
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source : 文藝春秋 2020年12月号