加齢黄斑変性患者に光明……網膜の下にチップを入れて視力回復が可能に

サイエンス社ホダックCEO本邦初インタビュー 前編

須田 桃子 科学ジャーナリスト

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ビジネス サイエンス

 脳とコンピュータをつなぐ技術をブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)という。この技術で世界の注目を集めるスタートアップがある。米国カリフォルニア州に本社を置くサイエンス社だ。イーロン・マスク氏率いるニューラリンク社の共同創業者の1人、マックス・ホダック氏が2021年に設立した。

ホダック氏(筆者撮影)

 そのホダック氏が、意識研究の国際会議に参加するため訪れていた札幌市で単独インタビューに応じた。日本のメディアの取材を受けるのは初めてだという。36歳のCEOが自信に満ちた口調で語ったのは、視覚補助装置の実用化に向けた着実な進展と、未来のBCI技術の驚くべき展望だった(取材は10月2日に行った)。

 インタビュー前編では、主に視覚補助装置について聞いた。実用化が最も近い視覚補助装置「PRIMA(プリマ)インプラント」は、マイクロチップを網膜の下に埋め込み、特殊なメガネとセットで使うことで人工的に視力を取り戻させる。進行すると失明に至る目の難病、加齢黄斑変性(欧米では成人の失明原因1位)を対象にした臨床試験では、患者が再び文字を読めるようになったというデータを発表し、世界を驚かせた。

須田桃子氏 ©文藝春秋

単語を読み、パズルを解けるようになった

 ――まず、視覚補助装置「PRIMAインプラント」について伺います。2024年9月に発表された中間データによると、欧州と英国の17施設で実施された臨床試験では、参加した加齢黄斑変性の患者38人のうち84%が文字や数字、単語を読めるようになり、中には長い文章を読めるようになった人も複数いるそうですね。

 最終的なデータをまとめた論文がまもなく発表されますが、おおむねその通りの結果だと思います。従来の人工網膜デバイスでは「形態視」と呼ばれる機能が得られず、文字を見たときに脳がそれをつなぎ合わせて単語として読むことができませんでした。一方、プリマはそれを可能にし、患者は単なる形以上のものが見えるようになりました。単語を読んだり、クロスワードパズルを解いたりできるようになったのです。

 ――色は見えないのですね。

 色がわかるようにはなりません。

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