激しく批判され、「汗と涙にまみれた夜」も
聞き手・緑 慎也(サイエンスジャーナリスト)
この15年、秋は憂鬱な季節でした。2010年にトムソン・ロイター(現クラリベイト・アナリティクス)から論文の被引用数などをもとに授与される引用栄誉賞を受けて以来、ノーベル賞候補として名前が挙がり、周囲から「今年こそ」と声をかけられながら選ばれず、気が重くなっていたからです。毎年9月から10月初めまでは電話やメールが殺到するのが一種の「儀式」となっていました。
だからこそ10月8日の午後、スウェーデン王立科学アカデミーから受賞決定の知らせを受けたとき、もちろん光栄でしたが、心のどこかで安堵も感じました。

目に見えない微細な孔を無数に持ち、特定の気体などを効率よく貯蔵したり、分離したりできる高機能な分子スポンジ「多孔性材料」。その一種となる「金属有機構造体」開発の功績により、10月8日、北川進京都大学特別教授(74)のノーベル化学賞の受賞が決まった。同日夜の記者会見で北川氏は「空気は目に見えない金」「気体に期待してください」と語り、そのユーモアや人間味溢れる言葉が会場を笑いに包んだ。
「これ、孔が開いていますよ」
京都大学の大学院で博士号を取った後、助手として近畿大学に就職しました。僕を採用してくれた宗像恵教授と一緒に取り組んだのは、1価の銅イオン(Cu+)を含む分子というテーマでした。
それまで1価の銅イオンに興味を持つ人はほとんどいませんでした。赤銅色に光る金属の銅や、水に溶けると青くなる2価の銅イオン(Cu²+)と違い、1価の銅イオンは光を当てても色を示さず、磁石としての性質も持っていなかったからです。
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