【イベントレポート】労働組合のあるべき姿 対話と共感が育む、労使コミュニケーションの新基準

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変化の激しい時代において、いま改めて問われているのは「労使がどう対話し、どう未来を共に創るか」です。企業の変革スピードが加速し、AI・ジョブ型雇用・副業など、働き方の多様化が進む中で、労働組合の役割もまた大きな転換期を迎えています。かつては労働条件の改善をめざす交渉機関としての側面が強かった労働組合も、今日では「働く人の声を経営に届け、組織を強くするパートナー」へと進化することが求められています。その中心にあるのが、労使の信頼とコミュニケーションの質です。

一方で、若年層を中心に「組合は自分とは関係がない」「変化に対応していない」といった意識の乖離も見られます。終身雇用や年功序列の崩壊によって帰属意識が薄れ、キャリアを自らデザインする時代において、組合がいかに個人の想いや価値観に寄り添い、信頼を取り戻すかが大きな課題です。

海外では、コミュニティ型・テーマ型の“新しいユニオン”が広がりを見せています。米国のIT企業や欧州の社会連帯型ユニオンでは、職場課題だけでなく、ウェルビーイング・多様性・社会的公正など、「共感でつながる組合」への進化が進行中です。

本カンファレンスでは、こうした世界的な潮流も踏まえながら、労使コミュニケーションをどう再設計するか、若者世代と組合の新しい関係づくり、経営と組合が共に成長をめざす“共創型”労使関係の実践事例を多面的に議論した。

■基調講演

労働組合は本来の役割を見失っていないか?
~ 会社にとっての“財産” -労働組合への期待と真価 ~

独立行政法人労働政策研究・研修機構
理事長
藤村 博之氏

京都大学助手、滋賀大学助教授、教授、1997年に法政大学経営学部教授、2004年同大学大学院イノベーション・マネジメント研究科教授を経て、23年4月から現職。07年度から4年間、法政大学キャリアセンター長を務め、学生のキャリア教育に尽力する。その際の基本方針は、日々の学びの中にこそキャリア教育はあるというものだった。講義やゼミ、課外活動がどのように将来の働く力に結びついているのかを明らかにした。専門は労使関係論、人材育成論。19年から中央最低賃金審議会会長を務めている。京都大学博士(経済学)。

◎会社の中で労働組合に求められている役割を考える

日本の会社の99%には労働組合(以下、労組)がない。しかし、労組がなくなると困るのは実は経営者・人事部側だと考える。働いていて「変だな・困ったな」と思ったことを解決するのが労組だ。

いい会社・いい職場にするために、労組はさまざまなことができる。おかしいことははっきりと「おかしい」と言い、イノベーション(新結合・おもしろいこと)に挑戦することもできる。労組の役割は、靴の中に入った小石を取り除くことに例えられる。歩きにくいことに気づき、歩きにくさの原因を特定し、原因を取り除くのである。

労組は、“何か変だ”という違和感を大切にし、問題発見能力を高めたい。経営者は断片的な情報をつなぎ合わせて全体像を推察し、意思決定する。的確な情報が集まっていなければ、正しい全体像を描くことができず、意思決定を誤る。労組は現場やふだんの状態をいつも見ているから、違いがわかる。労組内でキーワードを示して情報を集め、集まった情報を経営に伝えるのだ。

消防署的な役割と人体における神経のような役割を持っている労働組合は、企業の財産だ。経営者を裸の王様にしないためには、会社が持つ情報伝達経路のほかに労働組合という情報経路が必要である。

◎日本企業の雇用方式と労使関係の特徴を整理する

現場の第一線で人的資本価値を高めるにはどうしたらいいのか?日本企業の課題である「いいものを高く売る」にはどうすればいいのか?企業はこうした数々の問題を抱えるが、問題の本質を見極め原因を究明するには時間と労力が必要であり、少し余裕を持って労使が多様な視点から議論することが求められる。

労使がホンネで話し合えるのは日本の良い特徴で、企業の競争力向上に寄与してきた。労使協議の形骸化は日本企業の競争力にとってマイナスだ。バブル崩壊後の不況を乗り切るために労組は経営側に協力せざるをえなかった。しかし、ギリギリの人員で運営されている職場では、仕事のおもしろさを感じられなくなっている。

経営との対立を避け人員減や賃上げを我慢してきたことが、経営側に「コストで競争できる」という錯覚を抱かせ、結果として日本企業の競争力を落としてしまったのではないか。労組が会社からの提案に対してはっきりと意見を言う、正常化した労使関係を結びたい。

◎社会の中で労働組合が果たさなければならない役割を考える

労組だからできることは、経営に発想の転換を迫る/経営側が見えていないことを指摘する/ものごとの本質をとらえ、言い難いことを言う/社会の中で起こっている問題の解決に取り組む、である。

労組は能力育成の場でもある。労組の役職者になれば、自分で手を挙げて挑戦させてくれる/会社全体の動きがわかる/社内外の人脈が広がる/コミュニケーション能力が磨かれる/人間の幅が広がる、といった効用がある。

強い組織とは、構成員が課題達成に対する強い意欲を持っている/変化対応力が優れている/構成メンバーが弱音を吐ける、そんな組織だ。まとめのスライドは以下。メールマガジンも読んでいただければ幸いだ。

■スペシャルトークセッション

三菱電機労働組合が大切にする「つながり」と、
これからの「あるべき姿」

三菱電機労働組合
中央副執行委員長
渡邊 佳正氏

2020年8月から三菱電機労働組合西部研究所支部にて副執行委員長および執行委員長、24年8月から本部にて中央副執行委員長(現職)。本部では、「組織」「広報」「社会活動」、「情報化」などの取りまとめを担当。現在、ヤプリの協力のもと23年9月に導入した組合員向けアプリ「MELON*」の運営にも従事。*MELONは三菱電機労働組合の愛称

株式会社ヤプリ
取締役執行役員COO
山本 崇博氏

2019年(株)ヤプリ入社。CMO、P&C(ピープル&カルチャー)本部長を歴任し、現在取締役執行役員COO、兼ビジネス統括本部を管掌。以前は、外資系広告代理店、ゲーム会社を経て、前職の株式会社アイ・エム・ジェイでは、執行役員として、マーケティングコンサルティング部門を牽引。製造、通信、放送、流通、教育、金融など多業種に渡るクライアントを支援。

◎「UNITE by Yappli」について(山本氏が解説)

組織の「壁」を超えて、社員の「心」をつなぐ社内エンゲージメント・アプリプラットフォームが「UNITE by Yappli」。会社の重要な情報が全員に届かない情報格差=情報伝達の壁、社員のつながりが希薄化・組織の一体感が失われる=社員間の壁、学習や育成が変化する業務に対応できない=学びの壁、を超え組織を活性化する機能がオールインワンとなった、伝え、つながり、学べるソリューションだ。

スマートフォン経由で企業理念や会社の取り組みを浸透させる多彩な配信手段として、既に100社以上に採用されている。対面交流も促しデジタル名刺で繋がることもでき、パーソナルな興味関心で繋がりより深い信頼関係の構築にも寄与する。

学びのコンテンツを発信し、どこでも、いつでも学びによる成長を加速することができる。また、独自の社内ポイント(付与)により自発的に楽しみ、継続的に使われるアプリとすることも可能だ。

◎三菱電機労働組合の活動とアプリ(渡邊氏が解説)

三菱電機労働組合は、全国35支部・分会からなる約3万2,000人の組合員を抱える労働組合である。
組合結成70周年を迎えるにあたり、2023年にヤプリのUNITEを利用した組合員向けアプリ『MELON』をリリースした。導入の目的は、情報格差の解消、情報伝達スピード、閲覧率の向上である。

特徴と運用の工夫としては、本部ページと支部・分会ページが容易に切替可能(支部・分会のページ運用は支部・分会の役員に権限委譲)としている。また、2年に一度の役員改選を機に運用が滞らないよう、支部・分会の広報担当者が集まり、アプリ運用ルールを学び、その場でアプリページの制作を実体験する機会を設けている。

2025年12月現在で累積2万ダウンロードを達成(利用者は組合員の約半数)。浸透はまだ道半ばで、全体のダウンロード率やアクティブ率向上につながるキラーコンテンツの拡充が必要と認識している。アプリ活用状況の可視化やアプリ×組合員投稿企画、アプリ×各種申請、クーポン機能の有効活用などの施策に注力している。
続いてMELONのビジョン、アプリリリース以外の70周年記念事業について共有。MELONビジョンは約10年おきに見直しており、現在のビジョン「笑顔な毎日。ゆたかな人生。」は2020年に確立した。

70周年記念事業コンセプト「みんなの幸せファクトリー#To Smile」をもとに、テーマパーク時間貸し切りイベント(組合員とご家族合わせて約1万4000人が参加)、事務所リレイアウト(コミュニケーションが取れる・取りやすい空間に刷新)、支部・分会の枠を超えた交流イベントなどを行い、イベントの周知や参加者の募集の際には積極的にアプリを活用した。

また、これからも大切にしていきたい活動として、Face to Faceによる“組合機関会議(定期大会や中央委員会)の議案説明”、本部役員と支部役員が一緒になって職場の組合員が置かれる実情について意見交換や研修などを行う“トリプルコミュニケーション”、支部・分会や職種を越えた組合員同士で交流を図る“次世代リーダーワークショップ”の3点を紹介した。

経営は私たちの生活にも直結するため、組合にとって経営対策活動は重要な取り組みであり、ボトムアップで組合員のさまざまな声を経営層に届けている。現在の「労使協議制」や協議会精神は長年労使で受け継がれてきた枠組み・考え方であり、これからも労使コミュニケーションの原点として大切にしていく。

組合を取り巻く環境はこれからも大きく変化していくと思われるが、変えるべきこと、変えるべきではないことを適切に見極め、かつ時代の潮流を捉えた活動となるよう、引き続き携わっていく。

■特別講演

労働組合をアップデート
~ つながるコミュニケーション ~

朝日新聞社 GLOBE編集部 記者
『なぜ今、労働組合なのか』著者
藤崎 麻里氏

1979年生まれ。経済部、政治部などを経て、GLOBE編集部。経済部では経済産業省、エネルギー、金融、IT、総務省、連合など労働分野を担当した。一橋大学大学院社会学研究科ならびにロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)大学院国際関係学科で修士課程を修了。

連合や労働組合の取材を記者として担当し、2023年には米国の労組の取材も行った。取材を通して改めて感じた労組の意義は、
・週休2日、1日8時間労働、育児休業といった労働者目線からのルールメイキング
・賃上げ:波及効果
・カスハラ、価格転嫁などをはじめとする労働者発の政策提言
・代表制をもてる合意形成の仕組み
・働き方が多様化する中でより細かなニーズに応えられる可能性
など。

社会インフラとしての労組の重要性は十分に世の中に伝わっておらず、また実は社会がフリーライダーの面もあるという気づきを得た。

身近なところでも「労組は遠い存在」という声をよく聞く。一方、労働組合⇒組合外の社会へ、連合、産業別労働組合、単位労働組合(単組)⇒一般組合員へという発信は重要だが、労組側からも「労組は発信が課題」と聞く。私が取材を通して気になったのは、労組の文書には独特の用語や漢字が多いこと、そして労組自身の「UI/UX」が十分意識されているのだろうか、ということだ。

TBS在職時に労組の副委員長を務めた経験のある小島慶子さんは「(組合活動は)働く人の当然の権利を使って、働く環境をカスタマイズできる手段」と述べている。組合活動にやりがいを感じていた小島さんだが、組合の伝統となっている檄文調の言葉遣いや、貼り紙の殴り書き風の書体、「!」の多用などには違和感を抱いたという。身近に感じられるか、新規の人にとっても分かりやすいか、組合のコミュニケーションがマイナスイメージに繋がっていないか、確認したい。

ITによる情報伝達の構造変化があり、情報過多の時代となった。また、古くからある組織は“既得権益”とみられ、信頼されづらくもなっている。情報過多を生き抜く「戦略コミュニケーション」が必要な時代だ。従来の広報では必要な情報を届けられない。発信するだけではなく情報を届けるイメージに転換する必要性が指摘されている。

大事なのは聴くコミュニケーション。情報を受け取ってもらうために、まず届けたい相手が何を求めているか、どんなコミュニケーション手段を使っているかを知るところから始めたい。そんな“戦コミ”時代にあって、労働組合は発信したい相手とつながれている。そもそも同じ職場で顔が見える関係であり、一対一含めて対話の場を作れるし、アンケートや意見の表明・集約も可能だ。

◎労組のニーズは潜在的に高い

変わる労働市場において、これまでも非正規、フリーランスとして、やマッチングサービスによる新しい働き方への対応は遅れがちだった。こうした批判に加えて、労組に対してネガティブな言説(ナラティブ)が出ることも多く、勤労者働く人にとって労組の存在感は下がっている

しかし、労組のニーズは潜在的に高いと考える。フジテレビ問題を見ても、いざというときに期待があった。労組発の提起であったカスハラが他業種を含めて急速に広がっていった。そして副業解禁、今後広がるであろう格差などを考えても、個々人の不安は大きくなっているのではないか。個人化が進むなか、集団的な枠組みは一層重要になる。ワークルールを浸透させる上でも、リスキリングなどの分野をすすめる上でも、また外国人の働き手対応においても、労組を政策的に位置付けることで、解決に向かいやすくなる課題は多い。従来の労組がやってきたこと以外にも、担うことが期待される役割があるはずだ。また個人化が進み、共助のしくみが失われつつあるという点は、労組だけが面している問題ではない。

だからこそ労組自身が世論の共感(社会のまなざし)を意識することは大切だ。世間で評価されることは組織のエンパワーメントにつながるほか、リスクマネジメントとしても必要だ。持続可能性が見えない時代だからこそ、社会からよりその必要性を意識される存在になっていってほしい。

米国の労組取材で会った、シカゴ教職員組合のポター副会長の取材を通じて思ったことを記したスライドで締めたい。「労組の魅力はクリエイティブに価値がつくれること」。

2025年12月11日(木) 会場対面及びオンラインLIVE配信でのハイブリッド開催

source : 文藝春秋 メディア事業局