「自殺者2万人、単身女性の3人に1人が貧困──この地獄を私が終わらせる。消費税廃止の財源27兆円はこうすれば生み出せる」。山本太郎(れいわ新選組代表)はこう強調する。今や“政界の風雲児”となった彼が本気で考えた「政策論文」を一挙公開する!
人々に投資をしないドケチ国家
「れいわ新選組」が2議席を獲得した参院選から半年近くが経ちました。選挙中の熱狂は凄かったとよく言われますが、今が最も勢いがあると思っています。私は参院選の後、北海道から沖縄まで全国を回っていますが、演説会でも「私も話したい」と手を挙げる人がどんどん増えている。そこで気になるのは、どこに行っても、「こんな国、どうせ良くなるわけないだろ」と自暴自棄な言葉を吐く人がいること。でも、話を聞いていくと、「奨学金だけでも何とかしてくれ」と言われたりする。それほどしんどい思いをしてきたのだな、と受け止めています。
みんな本当に苦しんでいる。子どもの7人に1人、高齢者の5人に1人、1人暮らしの女性の3人に1人が貧困状態にあります。日本は今、生きていくのに、全く希望が持てない社会なのです。結果、毎年2万人以上が自殺し、50万人以上が自殺未遂をしている。そんな地獄のような世の中はもう終わりにしたい。
この数字を見て下さい。厚労省の国民生活基礎調査によれば、「生活が苦しい」と感じている人の割合は、全世帯の57.7%(2018年)、母子家庭に限れば82.7%(16年大規模調査)に及びます。日本銀行の家計の金融行動に関する世論調査(17年度)によれば、1人暮らしの貯蓄ゼロ世帯は、20代で61%、30代で40%、40代で45%にも上る。
ここから分かることは2つあります。1つは、家庭を持つどころか、1人で生きるだけで精一杯の人が大勢いるということ。当然、少子化はもっと加速していきます。もう1つは、貯蓄ゼロ世帯の20代から40代の人たちもいずれ高齢者になるわけですが、金融庁の報告書にあったように、老後までに2000万円を貯めておくことなど、とても不可能だということ。彼らはこの先、どうなるか。今のままだと野垂れ死ぬしかありません。
それに対し、この国では今、「あなたが頑張らなかったからだ」という自己責任論が広がっています。しかし、本当にそうでしょうか。私は違うと思う。「あなたが頑張らなかったから」ではなく、「国が積み重ねてきた政策が間違っていたから」人々の生活が壊れてしまったのです。
日本という国は20年以上にわたり、人々に投資をしないドケチ国家でした。IMF(国際通貨基金)のデータで見ると、1997年から20年間の政府支出の伸び率は、戦争・紛争中の国々を除いた140以上の国の中で、堂々の最下位です。20年間の名目成長率でも、日本が最下位。投資がなければ、リターンもない、当然でしょう。アベノミクスは大盤振る舞いと批判されましたが、20年以上のデフレを終わらせる財政出動、人々への投資が全く足りていない。国がドケチ政策を続けた結果、人々の生活は困窮し、人生を狂わされてきたのです。
そんな状況にもかかわらず、安倍政権は昨年10月、消費税を10%に引き上げました。もはや国民に対する“DV”と言ってもいい。許し難い暴政です。
1カ月分の給料が返ってくる
日本の経済と人々の暮らしを立て直すためにどうすればいいか。最も効果的な施策が「消費税廃止」です。
そもそも私たちが年間でどれほどの消費税を払っているか、ご存知でしょうか。
2014年の総務省の調査を基に試算しました。仮に、消費税が10%の場合、支払うと想定される消費税は約22万円。つまり消費税の逆進性の影響を受ける低所得者層では、約1カ月分の給料が消えてしまう計算になる。逆に言えば、消費税を廃止すると、約1カ月分の給料が私たちの手元に返ってくるのです。
すると、どうなるか。人々は食べたかったものを食べる。本当に自分が必要としていたものが買える。消費が活発になっていくと、当然、モノが売れる。これまでは内部留保を貯め込んでいた企業も、投資を増やそうという話になる。デフレ不況が続いていますが、消費と投資が活発にならなければ、国の景気は良くなりません。
さらに言えば、消費税で最も苦しんでいるのは、中小零細企業です。この国の全企業のうち、中小零細は99.7%で、雇用の数で見ても約7割。ところが、彼らが今、消費税を納税できない状況に陥っています。
こんなデータがあります。国税の滞納(約6200億円)のうち、約6割を占めるのが、実は消費税(約3600億円)なのです。消費税は法人税や所得税と違い、年間売上高が1000万円以上あれば、赤字でも納税しなければなりません。つまり、それだけ消費税を納められない中小零細企業が多いということです。
全国を遊説中
全国を回る中で、私は地元の人たちと小さな「おしゃべり会」を重ねてきました。ある地方に行った時、駅前で流行っているラーメン屋の店主がこんなことを言ったのです。「周りからは儲かっていると言われるけど、トンデモない。もう2年ほど消費税を滞納している。数カ月に1回税務署に行って、必ず払いますからって頭を下げている」と。行列ができるラーメン屋ですら、消費税が払えない。これが今の日本の実態です。にもかかわらず、増税するのは、愚の骨頂と言わざるを得ません。
もし消費税を廃止できれば、こうした中小零細企業や個人事業主は、息を吹き返すでしょう。そこで働く人たちも救われる。それは消費の拡大にも繋がっていくのです。
消費税を廃止したマレーシアを訪ねて
とはいえ、消費税廃止など無理に決まっているじゃないか――そう思っている人も多いと思います。制度の導入からすでに30年。税の大きな柱になっているのは確かです。しかし、実際に最近、消費税を廃止した国がある。マレーシアです。私は昨年8月、現地2泊の強行軍でマレーシアへ視察に行き、首相経済顧問や主税局長、中小企業の経営者らと会ってきました。
マレーシアで消費税を廃止したのは、物価の上昇を招き、国民の不満が溜まっていたからです。18年5月の総選挙で消費税廃止を掲げた希望連盟が勝利すると、92歳で国のトップに返り咲いたマハティール新首相は、翌6月から6%だった消費税を事実上ゼロにした。
山本太郎氏
代わりに復活させたのが、15年まで存在したSST(売上サービス税)でした。消費税の非課税項目は545でしたが、SSTでは、食品や医薬品をはじめ、非課税項目は5443と大幅に拡大した。これだけでも一般国民の負担は大幅に軽減されたと思います。
ホテル料金や保険商品、弁護士・会計士費用などについても、年間売上高約1350万円以上の事業者のサービスを利用した場合、6%のサービス税がかかるようになった。飲食店についても、年間売上高約4000万円以上の事業者を利用した時のみ、サービス税が課税されます。わかりやすく言えば、定食屋では税金はかからないが、高級レストランではかかる。いわば、贅沢税です。
消費税廃止、贅沢税復活から1年、マレーシアの経済はどうなったか。マレーシアの19年4〜6月期のGDPは前年同期比で4.9%増(日本は1.0%増)。両国ほぼ同様にGDPの6割を占める個人消費で見ると、7.8%増(日本は0.7%増)です。
もちろん、日本とマレーシアの成長率を単純に比較できるわけではありません。ただマレーシアの経済も米中貿易戦争の影響を受けたり、外国人労働者の増加で自国民の給料が上がりにくくなっていたり、様々なマイナス要因を抱えた中でも健闘していると言えます。消費税廃止に、個人消費を増やす効果があるのは明らかでしょう。
マレーシアにできたことが日本にできないはずがない。私はそう思っています。
税金はあるところから取れ
消費税廃止論に対し、必ず指摘されるのは、代わりの財源。消費税収は国と地方合わせて、単純計算で1%あたり2.6〜2.7兆円。国と地方分すべてを5%減税なら半分の13〜13.5兆円。廃止なら26〜27兆円。確かにこれをゼロにするだけだったら、財政に甚大な影響が出ることは、私も理解しています。
しかし、財源はある。大きく分けて2つです。
1つは「税金」。ただ、大事なのは、「税金はないところから取るな、あるところから取れ」ということ。「あるところ」とは、消費税ではなく、法人税と所得税です。
まず法人税ですが、この数字を見て下さい。消費税収は3%の消費税が導入された89年以降、97年の5%への増税、14年の8%への増税を経て、16年までの28年間で累計約263兆円に上ります。
他方、法人税収はどうか。89年をピークに消費増税のたびに、減税措置が施され、どんどん税収が減っている。89年の法人税収約19兆円から各年の法人税収を差し引いたものを累計すると、同じ28年間で計約192.5兆円。消費税収の実に約73%が法人税の減少分に割り当てられた計算です。
大企業を優遇するために、庶民を犠牲にしてきた。そう言っても過言ではありません。
プロジェクターを使って解説
もう少し細かく法人税の実態を見ていきましょう。
法人税率は、89年以前は40%を超えていましたが、段階的に引き下げられ、現在は23.2%。これは、企業の規模や利益の大きさを問わない単一課税です。
ところが、表向きは単一課税でありながら、大企業には“税の大割引”が存在しています。例えば、法人税から研究開発費を差し引くことができるという研究開発減税。この制度の恩恵を受けられるのは、事実上、多額の研究開発費を投入できる大企業だけです。大企業優遇と言える、こうした減税メニューの数は80項目以上もある。その結果、大企業の中には23.2%どころか、実際の法人税率は10%台の会社もあるのです。
そうした中、安倍政権は10%への消費増税に踏み切った。案の定、呼応する形で、自民、公明両党の税制調査会は昨年12月、設立10年未満のベンチャー企業に投資した企業への減税など、大企業への新たな優遇措置を盛り込んだ与党税制大綱を取りまとめました。この動きからも、消費増税と大企業減税は必ずセットだと分かる。そのことは総理も言い逃れできないでしょう。
企業は海外に出て行かない
私は、こうした大企業への優遇税制を一切廃止し、かつ、法人税にも所得税並みの累進税率(5%、15%、25%、35%、45%という5段階)を導入すべきと考えます。つまり、儲かっているなら、それ相応のお金を払ってもらうというシステムです。逆に言えば、経営が苦しい多くの中小零細企業に対しては、減税措置になる。“身の丈に合った”納税をしてもらうということです。
税理士の菅隆徳氏の試算によれば、この2つの政策を同時に実施することで、法人税収は年約29兆円まで増える。16年の法人税収は約10兆円ですから、約19兆円もの財源を確保することができるのです。
ただ、法人税増税に対し、懸念する声もあります。
例えば、働く人の給料が減ってしまうのでは、という指摘です。しかし累進税率の導入により、業績が良い時は、多くの税金を取られるくらいなら人件費を増やそうという方向に企業心理が働く。逆に業績が悪い時は、納めなければならない法人税も減りますから、結果、給料への影響も懸念するほどではないでしょう。
おそらく最も多い指摘は、企業の海外進出が加速するのでは、というものですが、これも疑問です。
経産省の海外事業活動基本調査(14年)によれば、〈海外進出を決定した理由〉(複数回答)のダントツ1位(67.5%)は〈現地での製品需要が旺盛又は今後の需要が見込まれる〉。要は、日本ではモノが売れない、投資をしてもリターンがないから、海外に出たということです。2位(32.9%)は〈納入先を含む、他の日系企業の進出実績がある〉。他の企業が海外に出るから、自分たちも出るという理由です。もちろん、〈税制、融資等の優遇措置がある〉を理由にした企業も一定程度いますが、複数回答にもかかわらず、8.7%に過ぎません。
この調査結果からわかるのは、法人税が低いからではなく、日本ではモノが売れないから、特に個人消費が増えないから、海外に出て行かざるを得ないということ。なぜ大企業があれだけ内部留保を貯め込むかと言えば、日本で投資に回してもリターンがないと思うからです。
大金持ちの所得税が安すぎる
ただ、この内部留保に課税すべき、という考えには反対です。企業が合法的に貯め込んだものに手をつけるのは、あまりにハレーションが大きい。ある意味、内部留保は企業が法人税減税のために努力した結果です。何を努力したかと言えば、政治を動かした。自分たちの考えを代弁してくれる政治家を大量に国会に送り出し、多数派を形成した。これが政治というものです。
私も決して無茶を言うわけではありません。税制改革は、大企業の皆さんの理解を得ながら進めていきたい。だから、貯め込んだ内部留保には手をつけない。代わりにその内部留保を、国がこれまで投資を怠った結果、ボロボロになってしまった分野――保育や介護、教育などに投資してもらえませんか、と呼びかけます。その時に初めて、大企業への投資減税なども考えられるでしょう。
「あるところから取れ」のもう1つが、所得税です。
所得税も昔に比べ、高額所得者に優しい税制になっています。私が生まれた74年時点で、所得税の最高税率は75%でした。しかも、最低税率の10%まで19段階に区分されていた。それが15年には最高税率は45%まで引き下げられ、区分も7段階と緩やかになっている。累進性が低く抑えられてきたのです。
所得税の問題は、それだけではありません。国税庁の申告所得税標本調査(14年)を基に所得税の負担率を年収別にまとめたところ、最も高かったのは、年収1億円の人で約28.7%。しかし、年収100億円という超大金持ちの人の負担率は本来の45%どころか、年収1億円の人より低い17.0%に留まっている。
なぜこんな数字になるのか。高所得者ほど所得に占める株式の譲渡所得などの割合が高く、そうした金融所得には、20%という低率の「分離課税」が適用されているからです。
私はこうした制度は一刻も早くやめるべきだと考えます。所得税についても、以前のような最高税率と累進性を復活させる。分離課税も廃止し、全ての所得に同じ税率(総合課税)を適用する。全国商工団体連合会の機関紙(19年1月14日付)での試算によれば、最高税率の引き上げと累進性強化だけで、年間約8〜10兆円の財源が生まれるとのことです。
つまり、法人税と所得税、2つの「税金」の改革で、計最大で約29兆円の財源を新たに生み出すことができるという試算です。これで消費税を廃止しても、その減収分を賄うことができます。ただ、あくまで民間の方による試算。より詳しい数字を出そうと思ったら、政権を取って、財務省に試算してもらうしかありません。
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source : 文藝春秋 2020年2月号