ネットの「南京錠」が破られる?

第26回

大栗 博司 物理学者

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ビジネス サイエンス

 1月の終わりに、私が理学部長をしているカリフォルニア工科大学の教授から、「ここ数か月の私たちの研究で、インターネット通信や仮想資産の暗号が、量子コンピュータによって解読できる段階に近づいていることが明らかになった。危険な状況なので、相談したい」というメールが届きました。

 私たちがアマゾンなどのインターネット通販で買い物をするときには、クレジットカード番号などの個人情報が盗まれないように暗号化する必要があります。また、ビットコインなどの仮想通貨のやり取りでは、改ざんを防止し、安全な送受金を保証するために、ブロックチェーンという方法が使われています。

 インターネット通信の暗号化とブロックチェーンの署名による本人確認は、いずれも公開鍵暗号という技術に基づいています。

 公開鍵暗号は、英国の政府通信本部で1960年代末ごろ着想されていましたが公開されず、1976年に米国の研究者によってその基本的な考え方が独立に発表されました。

 それ以前の暗号技術では、暗号化をするのとそれを解くのに同じ鍵を使っており、その鍵を安全に受け渡すこと自体が難題でした。しかも、同じ仕組みを繰り返し使えば、運用上の癖から手がかりを与えてしまいます。第二次世界大戦中に日本のパープル暗号やドイツのエニグマ暗号が連合国に解読された背景にも、そうした問題がありました。

 これに対し、公開鍵暗号では、鍵を共有する必要がありません。

 公開鍵暗号の仕組みを南京錠にたとえてみましょう。南京錠は閉じるのは簡単ですが、開けるのには鍵がいります。そこで、南京錠を配っておいて、誰でも南京錠で守られた手紙を送ってこられるようにしておきます。それを開ける鍵は盗まれないように手元に置いておけば、手紙は読まれません。このように、暗号化の規則は公開しても、それを解く方法を公開しなければ通信の秘密が守られるというのが公開鍵暗号です。

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source : 文藝春秋 2026年6月号

genre : ビジネス サイエンス