知ることを欲する

第25回

大栗 博司 物理学者

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ビジネス サイエンス

 私は2022年に、東京大学大学院の入学式で祝辞を述べる機会をいただきました。

 米国では、入学式よりも卒業式の方が大きなイベントとして受け止められ、そこでの祝辞がメディアやSNSなどで注目されることもあります。アップルの共同創業者スティーブ・ジョブズが2005年にスタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチは、その代表的な例でしょう。

 入学式の祝辞では、卒業式とはまた違った意味で、どのような言葉を贈るのがよいかを考えさせられます。大学院という新しい道に踏み出したばかりの学生たちに、いま何を語るべきか。私は、博士号を目指す研究の途上でふと思い出してもらえるような話をしたいと思いました。

 大学が既存の学問を学び、知的能力を養う場だとすれば、大学院はそれを基礎に新たな知を発見する場です。人類は何千年もの歴史の中で知識を積み重ね、それを共有の財産とすることで文明を発達させてきました。大学院の役割のひとつは、その知の地平をさらに押し広げることにあります。そして、自らの力で価値のある発見をした者に授けられるのが博士号です。

 そこで、価値のある発見とは何か、そしてそれを生み出すにはどうすればよいのかを、祝辞のテーマに選びました。

 この祝辞を述べてからの4年のあいだに、AIの発達によって、大学院を取り巻く環境は変化しました。知的生産の方法も影響を受けています。大学院進学を検討している人の中には、AIがさらに賢くなったら博士号を取得する意義などなくなるのではないか、20代の5年間を大学院で過ごす価値はあるのかと迷っている人もいるかもしれません。

 今号が出版されるのは日本各地で入学式が開かれている頃なので、祝辞原稿を読み直し、大学院で学ぶことの意義を改めて考えてみました。

まず型にはまれ

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source : 文藝春秋 2026年5月号

genre : ビジネス サイエンス