
2014年の秋に、文学・建築・科学の交流から新しい視点を探る試みとして、小説家の大江健三郎、建築家の原広司、文芸評論家の三浦雅士と私で座談会を開いたことがあります。そのときの記録は、岩波書店の雑誌『世界』に、「大いなる希望としての科学」というタイトルで掲載されました。
きっかけは、私が前年に上梓していた『大栗先生の超弦理論入門』(講談社ブルーバックス)に書かれた「空間は幻想である」という言葉に、原が興味を持ったことでした。
建築家は空間を考案することが仕事なので、空間は予め先立ってあるものとは考えない。原は、拙著に書かれた空間認識との共鳴を、そこに感じたのだそうです。
原から拙著を紹介された大江は、私がその以前に出版していた『重力とは何か』や『強い力と弱い力』(いずれも幻冬舎新書)も読み込んで、付箋のいっぱいついた本をもって現れました。
大江は拙著について、「独特の文章なんです」、「その文章をいま自分が読んでいる、確かに受け止めていると、読み手に自覚させるように語られている。それに乗って読み進むうち新しい理解を経験します」と評しました。
そして大江は、拙著の中で素粒子物理学の理論を「模型(モデル)」と呼んでいることに注目しました。
日常生活で模型というときには、何かを模倣して理解を助けるものです。模倣なので、対象のすべてを再現することはできませんが、そのある側面をとらえて理解を容易にします。たとえば、飛行機のプラモデルは空を飛びませんが、構造を視覚化してわかりやすく示してくれます。
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