不完全性定理が照らす無限の世界

第15回

大栗 博司 物理学者
ビジネス サイエンス 教育

 米国の大学にはテニュア・トラックという制度があります。最近は日本の大学でも取り入れられていますが、テニュアとは「終身在職権」のことで、それを得るまでの試用期間が「テニュア・トラック」です。

 先日、私の大学で数学の教員がテニュアを取得し、正教授に昇進したので、お祝いのレセプションが開かれ、私も参加しました。いったんテニュアを取得すると、よほどのことがなければ失職することはなく、しかも教授には定年もないので、学者にとっては重要な節目となります。

 数学の教授たちと歓談していると、話題は自然に「素数」へと移っていきました。

 1、2、3…と数えていく、あの正の整数たちを「自然数」と呼びます。その中には、4のように2で割り切れる数もあれば、2や3のようにそれ以上小さな数で割ることのできないものもあります。

 自然数をどんどん割っていって、それ以上割れなくなった数、それが素数です。小さい順に、2、3、5、7、11、13、17…と続きます。1を素数に含めないのは、「算術の基本定理」をすっきり表現するためです。

 算術の基本定理とは、「すべての自然数は、素数の積にただ一通りに分解できる」というものです。もし1を素数に含めると、たとえば、6は2×3=1×2×3=1×1×2×3と様々に分解できるようになるので、定理の表現が複雑になります。それを避けるために、1は素数に含めないことにしているのです。

 物質を分解すると原子にたどり着くように、自然数を分解すると素数にたどり着く。つまり素数とは「数の原子」だということを示すこの定理は、名前に「基本」と冠されるにふさわしく、数学の中でもとりわけ大切にされています。

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source : 文藝春秋 2025年7月号

genre : ビジネス サイエンス 教育