10兆円ファンドが拓く大学の未来

第16回

大栗 博司 物理学者
ビジネス サイエンス 教育

 10兆円の大学ファンドを原資とし日本の大学の国際競争力強化を目指す「国際卓越研究大学制度」の第二期公募が、5月16日に締め切られ、8大学が申請をしたそうです。

 この機会に読売新聞から本制度の課題と将来への期待について取材を受け、6月7日朝刊の記事に引用されました。本稿では、その取材でお話しした内容をもとに、私なりの考えを整理してみたいと思います。

 そもそも10兆円ファンドは、米国の研究大学が大きな基金を持っていることに触発された計画です。

 私が教鞭を執っているカリフォルニア工科大学は、教授が約300名しかいない小さな大学ですが、約6000億円の基金を持っています。その運用益から毎年約300億円、つまり教授1人当たり約1億円の収入を得ていて、これは歳入総額の約23パーセントにあたります。

 大学基金の最大の利点は、その収入を大学の裁量で活用できることにあります。米国の大学はこのような自前の資金で科学の芽を育て、見込みが出てくると連邦政府の資金で長期にわたって支援するという仕組みで大きな成果を上げてきました。

 たとえば、2017年度ノーベル物理学賞の授賞対象となった重力波の直接観測は、キップ・ソーンらのアイデアにカリフォルニア工科大学が約20億円の投資をして検出器を試作させたことに始まりました。それが成功したので全米科学財団が1500億円以上の助成を行い重力波観測が実現しました。大学の基金と連邦政府の支援が両輪となって、世界の科学技術を主導してきたのです。

 このように多額の基金を築き上げるのには、長い時間がかかりました。国際卓越研究大学制度はそれを一挙に実現しようとするもので、制度設計にあたっては難しい判断や挑戦が多いことも承知しています。そのうえで、私が考える本制度の2つの課題を述べたいと思います。

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source : 文藝春秋 2025年8月号

genre : ビジネス サイエンス 教育