二酸化炭素の回収は現実的か

第17回

大栗 博司 物理学者
ビジネス サイエンス 教育

 私たちの暮らしであれ国際情勢であれ、つきつめれば「エネルギー」という目に見えない量に左右されています。中東紛争は、地球上で確認されている原油埋蔵量の約半分がこの地域にあることが主たる原因です。歴史を振り返れば、日本が太平洋戦争に踏み切った理由のひとつも、米国、英国、オランダによって石油が全面禁輸されたからでした。

 もし、外部からエネルギーを供給せずに仕事をする「永久機関」が実現できるなら、エネルギー問題は一挙に解決するように思えます。

 そのため永久機関は古くから多くの人々の興味を引き付けてきました。記録に残っている例としては、12世紀インドの数学者で天文学者のバースカラ2世が考えた永久に回転する車輪があります。車輪の中に水銀が流れていて、それが移動することで回転が続く仕組みですが、もちろん実際にはうまくいきません。

 18世紀後半に英国で産業革命が起きると、熱やエネルギーについての興味が高まり、物理学の中に「熱力学」という分野が生まれました。

 物理学は基本法則に基づいて森羅万象を説明する学問なので、その一分野である熱力学にも基本法則があります。熱力学の第一法則は「エネルギーの保存則」です。すべてのものはエネルギーを持っていて、その総和は変化しないという法則です。

 たとえば、蒸気機関は、蒸気と大気の温度差を利用して、蒸気の熱エネルギーを車輪の回転エネルギーに変換します。全体のエネルギーは変化しないので、蒸気の熱エネルギーがないと車輪は回転できません。

 この第一法則のため、エネルギーを供給しないでも仕事をするという永久機関の存在は否定されました。

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source : 文藝春秋 2025年9月号

genre : ビジネス サイエンス 教育