水道代格差社会がやってくる

20年後には約20倍に…

橋本 淳司 水ジャーナリスト
ニュース 社会 経済

いま知っておくべき論点を、専門家がコンパクトに解説する「文藝春秋オピニオン 2026年の論点100」。この人気ムックの記事を「文藝春秋PLUS」でも紹介します。

 2025年1月、埼玉県八潮市で道路が陥没し、走行中のトラックが転落した。原因は地下10メートルに埋設されていた下水道管の破損。腐食で損壊後、土砂が流入し、長時間かけて空洞ができていた。国土交通省によると全国の下水道管の総延長は49万キロ(2022年度末)。そのうち法定耐用年数を超えた管は3万キロ(7%)あり、2042年には20万キロ(40%)に達する。すでに年間2600件程度の下水道に起因する道路陥没事故が発生している。2024年の同省の調査では地下空洞は全国に4739か所あり、危険度の高い119か所が修理されている。

 一方、上水道管の老朽化も加速し、年間の漏水・損壊事故は2万件超。国交省によれば、全国の上水道管の総延長は74万キロ(2022年度末)。そのうち法定耐用年数を超えた管は17万6000キロ(23.6%)で、すべての更新には140年かかる。2024年1月に発生した能登半島地震は暮らしを支える水道の脆弱性を浮き彫りにした。とくに深刻だったのは「急所施設」と呼ばれる浄水場や配水池に直結する主要な管路の被害だ。広範囲で断水が発生し復旧にも時間がかかった。被災地では飲食店、美容室などで営業困難になり廃業を選ばざるを得なかった人、故郷を離れた人もいる。

画像はイメージです ©GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

 施設の更新や耐震化が遅れている原因は財源、人材の不足である。この10年間で全国の水道事業者の3割超が料金を上げた。水道料金は設備建設や維持管理にかかる費用を利用者数で割って決まる。つまり、自治体の施設状況、人口動態によって料金は変わる。1か月の水道料金は、最も安い兵庫県赤穂市で869円、最も高い北海道夕張市では6966円と現状8倍の差がある(※1)。だが、EY Japanと水の安全保障戦略機構によると、2046年には最も安い静岡県長泉町で1266円、最も高い福島県鏡石町では2万5837円と、20倍超に広がる見通しだ(※2)。人口減少が進む地域で現状の施設を維持すると費用負担は増す。さらに下水道は構造的に維持費が高く、上水道以上に財政負担が重い。ところが、下水道使用料は上水道料金よりも低く設定されている自治体が多い。普及促進の観点では効果があったが、もはや下水道使用料だけでは経営は成り立たず(雨水は公費)、一般財源から繰入が増えている。これは自治体経営を逼迫させる。国交省は八潮市の事故を受け、都市部の重要な下水道管の複線化、多重化を決めた。安全性や維持管理でのメリットは大きいが、さらにコスト高になる。

 また、水道に携わる自治体職員数は1980年の7万5000人から2020年に4万7000人(37%減)、下水道では1995年の4万7000人から2020年に2万7000人(43%減)になった。とりわけ現場を担う技能職員は1985年の1万2000人から2019年に2700人に減少している。持続性が危ぶまれる水道事業に、国は広域化、官民連携という対策を打ち出しているが課題も多い。現状の単独経営維持を望む自治体も多く、民間も人材不足で技術継承が進まない。

「拡大の発想」の限界

 一般的に水道インフラ持続のキーワードは、適正料金、広域化、官民連携とされてきた。「なぜ老朽設備が更新されないのか」という問いに対し、財源や人材の不足が答えとして示され、そこから「どうすれば財源を増やせるか」「人材を確保できるか」という処方箋が提示されてきたのである。

 しかし未来の水道を考えるには、住民や自治体自身が独自の問いを立てることが不可欠だ。「なぜ料金を下げられないのか」と問う前に、「インフラ維持は社会にとってどれほど重要か」「私たちは水道に何を求めるのか」と問い直す必要がある。どの水準のサービスを望み、どの程度の負担であれば納得できるのか。さらに「持続可能な水道」とは施設の延命を意味するのか、それとも衛生的で安全な暮らしを守ることなのか、利用者自身が優先順位を考えなければならない。また、人材についても「どう増やすか」ではなく「インフラの仕事を魅力あるものにするにはどうするか」という問いが本質に迫る。

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source : ノンフィクション出版 2026年の論点

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