会社に行くのが怖かった

西村 誠司 エクスコムグローバル代表取締役社長

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 Wi-Fiや美容医療を中心に事業を展開し、2022年からは高度不妊治療のクリニックを全国で始めました。事業の成功方程式みたいなものはありません。最初から「これはうまくいく」というものが見つかるわけではなく、10個やったらそのうちの1個が当たるという感じです。それも偶然見つかる。

 ボイスメールシステムの会社を起業した後、27歳で7000万円もの借金を背負いました。にっちもさっちも行かず、「新しいビジネスをしなければ」と、ラスベガスのIT展示会に事業のネタ探しに行きました。結婚前の現在の妻に50万円を借りてまで行ったのに、結局は見つからず、どうせならと友人に会って帰ることにしました。ところが飛行機の乗り継ぎトラブルで、友人を空港で4時間も待たせることになった。この時はまだ携帯電話が普及しておらず、連絡ができなかったのです。

 そこで思いついたのが、海外用の携帯電話の貸出サービスでした。20台のアメリカの携帯電話を確保し、出張の多い法人向けに貸す。その後はヨーロッパ向けなど、規模を拡大していきました。これで借金は3年で返せましたが、事業計画など何もありません(笑)。若さゆえにがむしゃらに行動し、運を引き込んだのです。

西村誠司氏 Ⓒ文藝春秋

 最大の失敗は、2013年の顧客クレジットカード情報の流出でした。上場を控えていた大事な時に、ハッキングに遭ってしまったのです。その前年にテレビCMを流し始め、知名度が上がったタイミングで狙われてしまった。この時、3か月後には上場する予定で、主要幹部8名ほどには無償で自社株を渡していました。でも、「事態を収拾して、お客様にお詫びすることに全力集中しなければならない。上場は延期する」と幹部らに通達したところ、「はしごをはずされた」と反旗を翻されてしまった。

 当時の私は会社に常駐しておらず、アメリカに住んでいて、帰国するのは1か月に一度ほどでした。忘れもしません――ある日、自分の会社の会議室に呼ばれて行くと、それまで信頼していた幹部がみんなよそよそしい。そして「あと少しで上場してキャピタルゲインが入ったのに。上場できないなら会社を身売りしてくれ。それをしないのなら一斉退職して会社を潰してやる」と宣告されてしまいました。

 まるでドラマか映画の世界です。もう自分の会社なのに足が向かない。会社のドアを開けるのも怖い。全員が敵のように思え、もう日本にもいたくない。すぐに予定を変更してアメリカに戻りました。乗り継ぎで降りたLAで手羽先の有名店「風来坊」に入り、ひとりで酒を飲んだものです。

 そして自分はどうしたかというと、会社を身売りする“振り”をしました。「会社を高値で買ってくれるところを探す。流出問題を収拾しないと買い手すら見つからないから、事態収拾に全力で取り組んでくれ」と。それと同時に、社内で自分に力を貸してくれる人を探し、少しずつ理念を共有できる仲間を作っていきました。

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source : 文藝春秋 2026年5月号

genre : ビジネス 企業 働き方 ライフスタイル