自らの戦争体験をもとに「アンパンマン」を世に送り出した漫画家のやなせたかし(1919~2013)。『やなせたかしの生涯 アンパンマンとぼく』(小社刊)を著書に持つノンフィクション作家の梯久美子氏が、その生き様を振り返る。

20代のころ、やなせたかし氏が編集長をつとめる雑誌『詩とメルヘン』の編集者になり、一から仕事を学んだ私は、いまも氏を「やなせ先生」と呼ぶ。心の中で呼びかけるときも、こうして文章を書くときも。
先生は風のような人だった。94歳まで生きたけれど、おじいさんっぽいところは微塵もなかった。怒らないし威張らない。誰にでも公平でベタベタしない。でも困った人がいたら手をさしのべる。さりげなく、ちょっとはずかしそうに。
あの独特の澱みのなさ、さらさらした感じはどこからくるのだろうと思っていた。
昨年、やなせ先生の伝記を書いた。あらためて生涯をたどってみて思った。先生は「恨むこと」「憎むこと」と無縁の人だった、と。
表現者としての核となったのは、両親との別れと戦争である。
新聞記者だった父と5歳で死別。小学校2年生のとき、母によって、開業医だった父方の伯父夫婦に預けられる。そのとき母は言った。
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