日本の現代詩を代表する詩人として、数多くの人々に愛される詩を遺した谷川俊太郎(1931〜2024)。共著『詩人なんて呼ばれて』の執筆のため、17回にわたるインタビューを行った文芸評論家の尾崎真理子氏が、その生涯と実像を綴る。

私は背の低い禿頭(とくとう)の老人です
もう半世紀以上のあいだ
名詞や動詞や助詞や形容詞や疑問符など
言葉どもに揉まれながら暮らしてきましたから
どちらかと言うと無言を好みます
こう始まる「自己紹介」という短い詩を、晩年の谷川さんは詩の催しなどでよく朗読した。最後の一行は「私の書く言葉には値段がつくことがあります」。そこで会場には笑いが広がるのだが、詩人は別に嬉しくも恥かしくもないというすまし顔で通す。そんな時、「陽気で、坦々として、而(しか)も己を売らないことをと」、かつて中原中也が自身に念じた詩の言葉を(「寒い夜の自我像」)、谷川さんも「しっくりと身に合う」と書いていたのを思い出したりしていた。詩人の佇まいとは、ことお金との関係において、なかなか難しいものかもしれなかった。だから谷川俊太郎以外の現代詩人はそれを生業とはしない。したくてもとても真似できなかった。
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source : 文藝春秋 2026年11月号

