畠山重篤 5万本の木を植えた漁師

畠山 信 森は海の恋人 理事長

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 豊かな海は、豊かな森とつながっている――。宮城・気仙沼で「森は海の恋人」を旗印に、植樹活動を通じて森と川と海のつながりを追い続けた漁師・畠山重篤(1943〜2025)。活動を引き継いだ三男の信氏が、父の背中を思い出す。

「森は海の恋人」の活動に生涯を捧げた畠山重篤氏 Ⓒ文藝春秋

 山に大漁旗がたなびいている。

 まだ子どもだった私には、不思議な光景でした。船に掲げるあれほど大きな旗が、植樹の時に山で掲げると、小さく見える。風になびくと鮮やかできれいでしたが、牡蠣漁師である父がなぜ山に木を植えるのか、当時はよく理解できませんでした。

 かつて気仙沼湾はたびたび赤潮の被害を受けていました。牡蠣は1個で1日に200リットルもの海水を鰓(えら)でこしています。赤潮が発生すれば、その影響をまともに受けます。気仙沼の牡蠣漁は危機に瀕しました。1984年、父はフランスのロワール川河口の牡蠣養殖場を視察した際、川の流域に広がる豊かな自然環境と、その川が流れ込む海とが、切り離せないものだと実感します。その経験が、生涯をかけて取り組むことになった「森は海の恋人」の活動へとつながっていきました。

牡蠣の水揚げ Ⓒ文藝春秋

 父は漁師なのに、やたらと書物を読む人で、新聞や雑誌を切り抜いたスクラップが、今でも書斎に大量に残っています。ひとたび興味を持つと、現地へ飛び、自分の目で見て、人に会ってくる。

 30年ほど前、専門学校生だった私は、父に連れられてスペインに行きました。父はまず路地にいる「牡蠣剥きおばちゃん」に話しかけ、地元の牡蠣漁師が集うバルの場所を教えてもらいます。そこで出会った漁師と朝からウォッカを飲み交わし、仲良くなると、そのまま「養殖いかだを見せてよ」と連れて行ってもらうんです。アポなし旅は周囲に迷惑をかけっぱなしで、いつ帰るのか、仕事はどうするのかと、母の小言は3人の息子たちに降ってきました。

左から次男の耕氏、長男の哲氏、三男の信氏 Ⓒ文藝春秋

 自由奔放な父でしたが、別の一面もありました。1974年頃から、気仙沼湾に注ぐ大川の河口から約8キロ上流に、宮城県による新月ダムの建設計画が持ち上がっていました。ダムができると川の流れや栄養分が変わり、牡蠣の成育に悪影響が出る恐れがある。父たち漁師も植樹を続けながら、ダム計画に反対の声を上げました。それに対して賛同だけでなく、批判の声もあり、自宅には嫌がらせの電話もかかってきました。父はひとつひとつの電話に、面倒くさがらずきちんと対応し、議論する。まだ小さかった私は父を見て子供心に「えらいなあ」と思いました。

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source : 文藝春秋 2026年11月号

genre : ライフ 社会 ライフスタイル