アラスカの大自然を活写した写真家・星野道夫(1952~96)。雑誌「SWITCH」を創刊した新井敏記氏は彼の生き方を羅針盤とする。

星野道夫に最初に会ったのは、1982年の冬の日だった。
「アラスカに住む写真家で、面白い男がいる」と、紹介された。
男は学生時代、神田の古本屋で1冊のアラスカの写真集に目を止めた。ベーリング海を背にしたエスキモーの村に、夕陽が差した1枚の写真。こんな北の最果てに人が住んでいる。いったいどんな暮らしをしているのだろう。単純な疑問がわき、男はその村の村長宛に手紙を書いた。
「あなたの村の写真を本で見ました。訪ねてみたいと思っています。何でもしますので、世話してくれる人は誰かいないでしょうか……」
無謀とも思える試みに、私は面白いと思い、ちょうど帰国している男と会う段取りを決めた。会うなり、男は秋に旅したばかりのアラスカ北極圏のブルックス山脈の話をしてくれた。北極圏やツンドラ地帯に生息し、夏、餌をもとめて何千キロと移動するカリブー(野生のトナカイ)を1カ月に渡って撮影したという。セスナの操縦士に極北の原野でおろしてもらい、迎えに来る日を約束して、男は旅をする。
私は「たったひとりでこわくないですか?」と、直截な質問を投げた。
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