アフガニスタン、パキスタンで医師として活動してきた中村哲(1946〜2019)は、診療の傍らで井戸を掘り始め、用水路事業によって荒れた土地を農地へと戻した。だが、2019年12月、アフガニスタン東部ジャララバードで車での移動中に銃撃され、73歳で命を落とす。1990年からの30年間、活動を共にし、現在も当地で活動する看護師の藤田千代子氏が中村医師から受け継がれた遺志について語る。

私と中村先生の出会いのきっかけは、日本で働いていた病院で先生の講演を聞いたことでした。アフガニスタンの置かれた状況をとつとつと話した先生が、ブルカを被った女性の写真をスライドで見せてくれたことが今も印象に残っています。現地の女性には家族以外の男性に肌を見せない習慣があるので、診療に困っている、と。女性の患者さんに私なら触れることができる──そう思ったことがPMS(中村医師の創設したペシャワール会の現地事業体)の活動に加わった理由でした。
やがてアフガニスタンでは大干ばつが起こり、診療所の周辺も干上がりました。谷には家畜の群れで汚染された水が流れ、子供たちは我慢できずにそれを飲んでしまう。その中で先生は「いま必要なのは薬ではなく水だ」と、迷いなく井戸を掘ると言い出しました。「え、誰が掘るんやろか」と驚きましたが、現地の職員たちとともに先生は「当然やるべきことだ」と動き出した。後に始まる用水路の建設も同じです。

先生の医療は、いつも「患者のクオリティ・オブ・ライフ」を考えるというものでした。その根底にあったのは、「命の不平等」への問いだったと私は思います。「命は地球より重い」と言われます。けれども現実はそうではない。干ばつで土地を失った人々が逃れてきたカブールに、空爆が行われたこともありました。命が平等に扱われていないという世界の現実に、先生は最後まで抗おうとしていた。そんなふうに思えるのです。
先生とは現地でずいぶんと喧嘩もしました。私も頭にきたら黙っていられない性分なので、「そげん目を三角にして話さんでもよかろうが」とよく言われたものです。
宗教はただの違いにすぎない
そんな先生に一度だけ、本気で𠮟られたことがあります。現地で働き始めた頃、灼熱の中で幾重にも衣服をまとった女性患者さんの診察に手間取り、「今の時代に、なんで女性がこんなかぶり物をしているのか」と先生に愚痴をこぼしたことがありました。すると、先生は珍しく声を荒げてこう言いました。
「分かっていないのはあんたの方だ。ただの違いであるものを、劣っているとか優れているとかと言って判断してはいけない」
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