父がアフガニスタンで凶弾に倒れてから1年以上が経ちました。いつも危険を承知で行くのを送り出していたからでしょうか、事件を知ったときは「起きてほしくはなかったけど、お疲れさまでした」と冷静に受け止めました。
父をアフガニスタンまで迎えに行く機中で、父のことや10歳まで住んでいたパキスタン北西部ペシャワールのことを思い出していました。騒がしくて埃っぽく、全体的に黄土色のイメージでしたが、いつも晴天で活気がある街でした。自宅は父の勤務していた病院の敷地内にあったので、家とは違う真剣な表情で仕事をしている父を垣間見ることがありました。子供ながらに大変そうだなと思っていたのでしょう、仕事で疲れうたた寝をしている父を見ると「このまま目を覚まさないのでは」と不安になり、寝息を確かめたこともありました。
今回の事件では、ドライバーと護衛の方5名が亡くなりましたが、皆さん私よりも若く、小さなお子様がいると聞いていたので、「幼くして父を亡くすことは大人の私とはまた違う悲しみがあるはず」と、子供の頃のあの不安な気持ちが重なり、悲しみが増すばかりでした。
到着後、大統領府でガニ大統領から弔意をいただき、父から事業の説明を受けたこと、国民が今回の事件を非常に悲しんでいるということを話してくださいました。ルーラ大統領夫人や大臣やその奥様もおられました。後で聞いたことですが、公的な立場にない女性が公の場所に出るのは極めて異例なことで、父がいかにアフガニスタンに受け入れられていたかを実感し、そのお心遣いに慰められました。私は大統領に感謝と、5名の方へのお悔やみを申し上げました。今回の訪問ではアフガニスタン国民の皆様の関心の高さに驚かされましたが、それだけアフガニスタンは困難な状況にあり、父の事業が必要とされていたのでしょう。
帰国前のカブール空港に父が働いていたナンガラハル州各地から長老の方々が駆けつけて来られました。「ありがとう」「申し訳ない」と必死の思いでおっしゃるご様子に、もっとお話しできる時間があればと残念でした。皆様の父への思い、ペシャワールを思い出させる懐かしい風景が名残惜しく、いつの日か再訪し、よみがえった緑の大地を見たいとの思いを強くしました。
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source : 文藝春秋 2021年4月号