インドで柿の種

巻頭随筆

河野 純 Daawat Kameda India 副社長
ビジネス 国際 企業

 皆さんはインドにどのようなイメージをお持ちだろうか? 「多様な民族・言語」「世界遺産」を思い浮かべる方も多いだろうが、最も多くの人の頭に浮かぶのは「カレー」ではないだろうか。

 カレーといえばごはんがつきものであり、インドも大きく分けて北部は小麦、南部はお米を食べる文化がある。

 米どころ新潟に本社を構える米菓メーカーの亀田製菓がインド進出を決めたのも、お米を食べる人口規模の大きな国としてのインドに成長性を感じた為である。

 当社の海外進出は1989年の米国に始まり、2003年以降は中国やタイなどアジアでも製造・販売している。インド市場には2017年に現地菓子メーカーとの合弁会社を設立することで、正式に進出した。

 当社の主力商品である「亀田の柿の種」や「ハッピーターン」は、これまで日本で多くのお客様に親しまれてきたが、果たしてインドのお客様はどのような味を求めているのか。それを探るために、まずはインドという国への理解を深めることから始めた。インドは多様な民族・言語・宗教で成り立っており、当然ながら食の嗜好も、我々が当初、想定していた以上にバラエティーに富んでいる。

 どのような商品ならばインドのお客様に好まれるか、試食会や試験販売を重ね、柿の種の大きさ、柿の種とピーナッツの割合、食感、味の仕様を決めていった。

 まず味だが、これは私たちが思っていたよりも辛く、濃いものが好まれた。そこでインド人の舌に合わせたシーズニング(調合)にこだわった。

 ピーナッツの配合の割合にも悩んだが、65対35が一番しっくりくる、との反応だった。

 また、インド人はクランチーな(カリッとした)食感を好むことがわかった。そのため柿の種は日本よりも大きく硬めにして、食べたときに「カリッ」と大きな音が出るよう、生地を厚くした。

 原料はインド米だ。日本から輸入するとコストの問題もあるし、インド米のほうがインドの人に親しみをもってもらえると考えたからだ。

 味は大胆な辛さの「スパイス・マニア」、定番の味「ソルト&ペッパー」、日本らしさを感じさせる「ワサビ」、リサーチで人気だった「チリ・ガーリック」の4種類。60グラム入りが50ルピー(約72円)、135グラム入りが99ルピー(約143円)という、インド版の柿の種「Kari Kari(カリカリ)」が完成。高級路線を狙って、インドの物価を考えると、価格はやや高額に設定した。

「カリカリ」という名前にしたのは、インド人の好む食感をストレートに訴えるためだが、そもそも「カキノタネ」という商品名では食品であることさえ理解されないからだ。

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source : 文藝春秋 2021年4月号

genre : ビジネス 国際 企業