アフガニスタンで人道支援事業を続けた中村哲医師は、2019年、現地で銃撃され亡くなった。享年73。娘の秋子氏が思い出を綴る。
素朴でどこにでもいる父親でした。家にいるときは、だいたい作業着を着て庭仕事。いなくなったと思ったら部屋でコーヒーを飲みながらパソコンか読書、いつの間にかまた庭へ。
宵っ張りだった父の部屋からは、真夜中でも明かりが漏れ、好きなモーツァルトやバッハが流れていました。お手洗いなどで目が覚めた時に近くを通ると「ああ、いるんだ」となぜかほっとしていたことを思い出します。ただ、父は一度話し出すと止まらないので、就寝前はなるべく部屋に行かないようにしていました。
そんなおしゃべりな父の話は温暖化や社会問題、戦争史など、人や自然のあり方に繋がる内容が多く、アフガニスタンと日本を通して、世界を見渡していたような印象があります。時々議論になることもありましたが、「そげん騒がんとよ、ぼんやりさせてた方がいいこともあるやろうが」、何か失敗をしても「死ぬわけじゃないけん、よかたい。どげんかなるよ」とおおらかでした。
庭には様々な観葉樹や果樹を植え、夏になると大きなプランターで野菜を育てていました。多い時には30鉢近くになるので、5、6本あるブルーベリーの樹と共に収穫に追われます。アフガニスタン滞在中にネットで注文したビニールハウスを、母と2人で組み立てたこともありました。家族で出かけるときは、ほとんどが阿蘇や九重にドライブ。特に紅葉の時期は楽しみだったようです。
中村哲
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source : 文藝春秋 2022年1月号