アラスカに魅せられ、そこに生きる動物や人々、息づく自然を撮り続けた星野道夫がこの世を去ってから26年が過ぎ、今年生誕70年を迎えた。それを記念し、故郷の千葉県市川市では7月から9月にかけて、写真展「星野道夫展 oneness―いのちの循環―」が開催された。星野は市川市で生まれ、アラスカに移り住むまでこの地で暮らしたが、アラスカに渡った後も、故郷の存在は彼の心の中に大きくあり、大切な場所であった。アラスカでは、大きな自然の中で多様な生命と向き合い撮影を続けてきたが、日本に帰国した折には、市川の身近な自然に触れるひと時を楽しみにしていた。
写真展会場には、星野の小学校時代の友人たちや中学・高校の同級生、アラスカ大学時代の友人などの訪問もあり、懐かしい再会が数多くあった。それぞれの人の心の中に星野との思い出が大切にしまわれていて、話をしていると当時の情景が、今もそのまま生き生きと蘇ってくるようであった。又、星野の作品を通してお互いに知り合い、人生のパートナーとなった夫婦との再会もあった。今までも彼の作品が縁で友人になった人たちや、夫婦になったという人たちと何度も出会ってきて、人と人とを結びつける不思議な何かがあることを感じている。
星野は友だちや家族をとても大切にする人だった。冬の時期に数か月日本に帰国し、その間に仕事の打ち合わせなどをしていたが、友人たちと過ごす時間をとても楽しみにしていて、限られた期間の中でその時間をやりくりしていた。星野と過ごした時間を振り返ったなかで一番心に残っていることは、息子の誕生をとても喜んでいたこと。撮影が終わってアラスカの家に戻ってくると、真っ先に息子のところへ行き、撮影で留守にしていた間にも少し顔が変わった(成長した)と言い、原稿を書く以外の時間はほとんど息子のそばで過ごしていた。息子が大きくなって一緒にフィールドで過ごしたり、旅をすることをとても楽しみにしていた。その息子も27歳になり、日本の会社に勤務している。休日には山に登ったり、自転車で旅をしたり、川下りをしたりと、自然の中で過ごす時間を楽しんでいる。
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source : 文藝春秋 2022年11月号