樹木希林 内田裕也との相互信頼

箭内 道彦 クリエイティブディレクター

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 強烈な存在感を放ち続けた俳優、樹木希林(1943〜2018)。クリエイティブディレクターの箭内道彦氏は、樹木とともに、今も語り継がれる名CMを制作した。

樹木希林氏 ©文藝春秋

 樹木希林さんとの最初の仕事は、FUJIFILMの「PHOTO IS」でした。「あなたにとって写真とは?」その問いにこたえていただくCM。

 随分あとになってから希林さんが打ち明けてくださったのですが、それまでCMに出る際は「そうでない方はそれなりに」の綾小路さゆり役のように必ず何らかの虚構の中にいた希林さんが、生身のまま世間と向き合わなくてはならないのは初めてであり、それがとても怖かったのよと仰いました。「できれば素が出るっていうのはホントに遠慮したいっていう。だから『PHOTO IS』は、おぉ、ちょっとこれは…ヤバイな…というふうに思ったの」。希林さんと僕は2人きりで編集室に籠り、CMのナレーションを書きました。


写真は正直だ。
口をきかない子が無理やり着せられた晴れ着、
そんな私が女優になって、近所の人たちが驚いた。
30だというのに婆さんの役をやって世間の人が呆れた。
それから何十年か経って、
白くしなくても髪が白くなってきた。
女優は、年を取ることにブレーキをかけたがる。
だけど、年を取ることが私は面白い。
(後略)


 このCMが出来上がってすぐに、僕は希林さんと南平台のご自宅でいろんな話をしました。余計なものは何も置いていない家、エアコンもありません。夫・内田裕也さんの話もたくさん伺いました。

 数年後に僕が結婚情報誌「ゼクシィ」のCMを作ることになって、希林さんのご自宅を訪ねました。「裕也さんと2人でCMに出て欲しいんです」と。長い間、30年以上も別居を続ける夫婦になぜ?と言う人もいた中、結婚をしていない僕はお二人に「結婚ってなんですか?」と尋ね、それをそのままCMにしたいのですと。「嘘はつかなくていいです」と希林さんに僕は言いました。

 希林さんと裕也さんは、撮影現場に別々にやって来て別々に帰っていきました。終始、特に会話らしい会話もされてなかったです。だけどなぜかそこに相互信頼というか深い絆を感じました。そして、その距離感のままそこにいる2人のそのままを撮りました。

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source : 文藝春秋 2026年11月号

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