谷川俊太郎さんは遠い詩人。学生の頃、その詩から言葉の不思議を教えられた。
*言葉を相手に
「患者には知る権利がある」と言われ始めたころ、「がんの告知」はどうあるべきかが臨床で問題になった。「宣告」も「告知」も言葉が大袈裟。「告げる」は少しやわらか。そんなころ、ぼくは1人のがん患者に出会う。山陰海岸で民宿を営む女性。ご主人と力を合わせはやる宿にし、がんにならんよう夫婦でタンポポのお茶を飲んでいた。県外の病院での手術。術後、病棟のロビーで女性は主人に聞く。「いけなんだだか?」。主人は答える。「タンポポのお茶飲んどったのになあ」「ほんとかあ」。
これは「告知」でも「告げる」でも「伝える」でもなく「伝わる」だ、と直感した。「伝える」は他動詞、「伝わる」は自動詞。そのことを本に書いた。初めての対談(1986年「思想の科学」鶴見俊輔司会)で谷川さんは言った。「ぼくは言葉を相手に仕事してるのであそこ印象に残りました」。漁師が魚を、樵が木を、農夫が土を相手に仕事をするように、言葉を相手にする仕事ってあるんだ、と知った。言葉と柔道する姿が浮かんだ。

*詩の言葉
「万有引力とは ひき合う孤独の力である」、フーン。「宇宙はひずんでいる それ故みんなはもとめ合う」(二十億光年の孤独)、フーン。谷川さんの詩の中の言葉を拾うようになった。詩は全体を読んでこそなのに、その中の数行が心に残ったりした。「どんなおおきなおとも しずけさをこわすことはできない」(ケトルドラム奏者)、ソウカ。「にんげんはなにかをしなくてはいけないのか はなはたださいているだけなのに それだけでいきているのに」(はな)、ソウカー。「美しいものはみな嘘に近づいてゆく」(東京抒情)、ソウナンダ。詩の中に哲学が在る。心を震わす詩の行がいくつもあった。
「ちぢこまったおちんちんがみえた(中略)おじいちゃんおしえて(中略)いまいちばんだれがすきなの」(おじいちゃん)。これって、介護の核心。
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