
■企画趣旨
AIの急速な進化とデジタルテクノロジーの普及は、企業の営業活動に大きな変革をもたらしています。とりわけBtoB領域においては、顧客の情報収集手段が高度化し、購買プロセスの多くが営業担当者と接触する以前に進んでいるとも言われています。AIを活用した情報探索やオンラインでの比較検討、複数部門による合議型の意思決定など、買い手の購買行動は大きく変化しており、従来の営業モデルは今、大きな転換点を迎えています。
こうした環境変化の中で、売り手側の営業戦略もまた、大きな変革を迫られています。顧客データの全社的な統合・活用、営業プロセスの可視化と標準化、ナレッジ共有の高度化、KGI・KPIの明確化などを通じて、営業活動を個人の経験や勘に依存するものから、データに基づいた戦略的な価値創出へと進化させていくことが求められています。さらに、新規開拓に加え、顧客との長期的な関係性を重視するカスタマーサクセスの視点も、営業戦略において欠かせない要素となりつつあります。
しかしながら、多くの企業では依然として営業活動の属人化や顧客情報の分断、部門間の連携不足といった構造的な課題が残されています。また、営業人材不足や人材育成の難しさも深刻化しており、営業組織の持続的な競争力をいかに確保するかは、経営に直結する重要なテーマとなっています。こうした課題を乗り越えるためには、営業部門だけに変革を委ねるのではなく、マーケティング、商品開発、カスタマーサクセス、DX部門などを含めた全社一体での営業変革が不可欠です。
さらに近年は、AIを活用した顧客分析や提案生成、案件管理、営業プロセスの自動化など、営業活動を高度化するテクノロジーが急速に進展しています。将来的には、自律的に業務を遂行する営業エージェントの登場も視野に入る中で、人とAIが共創する新たな営業の姿が現実味を帯び始めています。営業の役割は「売ること」から「顧客価値を創出すること」へと、その本質的な意味を問い直されているのです。
本カンファレンスでは、こうした時代背景を踏まえ、「営業戦略」をあらためて総点検します。変化する顧客の購買行動、AI・データ活用による営業モデルの進化、営業組織の再設計、人材育成とナレッジ共有、営業プロセスの可視化と標準化、さらにはAIと人が共創する次世代の営業のあり方まで、多角的な視点から議論を深めた。
■基調講演
AI時代の「任せて育つチーム」はどこが違うのか?
~再現性ある営業組織への転換とマネジメントの再定義~

TORiX株式会社
代表取締役
高橋 浩一 氏
東京大学経済学部卒業。外資系戦略コンサルティング会社を経て25歳で起業、企業研修のアルー(株)に創業参画(取締役副社長)。事業と組織を統括する立場として、創業から6年で70名までの成長を牽引。同社の上場に向けた事業基盤と組織体制を作る。2011年にTORiX(株)を設立し、代表取締役に就任。これまで4万人以上の営業強化支援に携わる。2024年4月から東京学芸大学の客員准教授も務め、「“教育”と“営業”の交差点」を探究している。
◎「勝ちパターン作り」こそが起点
何でもかんでも見ようとしてツールが使いこなせていない。人材育成の焦点が絞りきれず、具体的なアクションに移せない。達成しない限り褒められないので、上位2割以外が浮上しない……。こうした問題を抱えている企業やチームは多い。見える化、人材育成、コミュニケーションができていないのだ。
目標未達チームの多くは、。例えば、「営業が成果をあげるうえで最もインパクトのある行動は『いつ・何をする』こと勝ちパターンの共通言語や、頻繁に話題にのぼるKPIを持っていないですか?」。成果が上がっている企業やチームは、こうした問いに明確に答えられる。ベクトルが揃っているのだ。
5W1H:どんな場面の/どのタイミングで/何を/どんな風にやると成果が出る。なぜなら~といったように、勝ちパターンを共通言語化することは重要だ。能力ではなく実行/成果に直結/再現性、の3つの要件を満たしたい。
◎「フェーズ」で育成とコミュニケーションを変える
弊社は営業・商談の管理において、アラートダッシュボードで「重要フェーズ周辺の停滞」をチェック、重要フェーズ周辺の進捗を常にモニタリングしている(業績確認のダッシュボードを開くと最上部に表示)。そして、成果が出ない人材には育成の「型」をあてはめている。
勝ちパターンをカテゴリごとに集計して「やっていることが正しいか」を検証している。失注理由のカテゴリを定義⇒理由を集計・見える化⇒減らしたい失注をモニタリング、というようにカテゴリをつけて接戦案件での失注を減らしているのだ。接戦から皆で学ぶ営業会議も行っている(個人攻撃にならないように失注・受注案件ともに“ケーススタディ”として共有)。
今まで述べてきたようなことを繰り返すことで、先の「営業が成果をあげるうえで最もインパクトのある行動は『いつ・何をする』こと?」、という問いの答えが「初回訪問から2日以内の要件整理」である、といったことが分かり、共有されるようになる。
営業組織の命運を分ける「四つの角」は、(1)勝ちパターンがある(2)活動の実態が見える(3)人が育つ仕組みがある(4)コミュニケーションのバランスが良い、だ。これらの中心に「幸せな共創」が位置する。
キーワードは「接戦での強さ」だ。マネージャーは、接戦状況を問う質問を繰り返し、BANTCH(バントチャンネル)※と、提案が稟議に通るための要件を確認する。エネルギーをかけるべき接戦案件を峻別するのだ。
※BANTCH=BtoB営業やインサイドセールスで商談の優先順位と受注確度を見極めるために使われる、顧客ヒアリングのフレームワーク
接戦の受注からは「勝ちパターンの定石」を作る。営業担当に、顧客への受注御礼の際に、選定理由から決定場面に展開する質問や勝ちパターン構築につながる質問を行ってもらい、ポイントを聞き出す。同様に、接戦の失注からは「繰り返したくない敗因」を探る。そして共有する。
提案中は、商談フェーズを細分化したい。商談の見極め/課題の把握/要件整理/解決策の提案/稟議検討中/意思決定者の合意/事務手続き/受注、といった具合だ。接戦の振り返り+フェーズ定義から、上流に存在する“本当の勝負所”がわかる。そして、各フェーズに合わせた商談項目に「勝ちパターンの鍵」を混ぜるのだ。
◎マネジメントの観点とサイクルを作る
営業マネージャーは、受注や売上の目標は達成できそうか?(結果)や、行動目標は達成できそうか?活動や商談内容がきちんと報告されているか?(プロセス)に関心を持ってSFAなどを見る。しかし、営業の現場は得てして、期末の猛追や、プロセスKPI集中、日報の詳述・詳記などで「がんばってる感」を出そうとする。
しかしマネージャーは、パイプラインの状況や商談フェーズは前進しているか?(結果)や、行動の量・質は良くなっているか?異常や抜け漏れは発生せず、優先順位は合っているか?(プロセス)まで、もう一段踏み込んで見る必要がある。
ダッシュボードの“ATM”=Alert(停滞や抜け漏れ)/Targeting(アプローチ先のリスト)/Monitoring(進捗や結果)をきちんと見るようにしたい。確認プロセスごとにSFAのどこを見るか、どんな基準を持っておくかを決めておき、SFAを活用したマネジメントサイクルを作るのだ。営業会議も振り返りや現在地の確認より、今後に向けて、や、武器の供給に時間を割きたい。
◎「トライ&ハッピー」で組織設計する
任せても思うような結果が出ない、自分の忙しさが解消されない、育成したいが売上も追う必要がある……マネージャーの悩みは深い。私の近著『「任せて育つチーム」はどこが違うのか』(PHP研究所)では、マネージャーは「設計者」になろう、と説いている。
成果や成長への影響は、お客様からのフィードバックが最上だ。もちろん、上司の指導は意味がないということでは全くない。上司の指導が“直接的に行動を変えさせること”に向くと、本来あるべき方向から逸れやすいということだ。マネージャーはクローン幻想から脱却すべきだ。そして「ダメ出し指導」は最も効果が低い。
部下が顧客からの効果的かつ有用なフィードバックを聞いて成長できるように、自分なりに考えてうまくいくように上司はリードすべきだ。まず下記スライドの(1)、設計するから入り、サイクルを回し続けるのである。

■課題解決講演(1)
見込み客のニーズとタイミングを捉える
データドリブンセールス

ユーソナー株式会社
営業本部 DXグループ
執行役員
湯浅 将史 氏
2005年、ユーソナー(株)入社。20年以上、法人営業としてさまざまなビジネス課題の解決に従事。また、BtoBマーケティングの基盤となる顧客データベースの構築・維持・活用のポイントについて、各種セミナー・イベントで講演を行う。2018年10月 営業本部DXグループ執行役員に就任。
弊社は独自構築した日本最大級の法人・事業所マスターデータベース「LBC」を持つ。そして、そこに収められた事業所、店舗、支店、工場など含め1250万拠点のデータをもとに、企業活動の見えない情報を見える化する顧客データ統合ソリューション“uSonar(ユーソナー)”を提供している。
売上=顧客数×顧客単価である。よって顧客開拓は必須だが、営業は売れる先を探すのに時間がかかっている。売れにくい先に営業しても成果に結びつきづらい。売れる先を見つけるためには、見込み顧客のBANTすなわちBudget=予算、Authority=決裁権、Needs=ニーズ、Timeline=導入時期を検知・把握することが重要だ。
ユーソナーを活用し、Webでの行動履歴から、顧客の興味関心を推測することができる。ユーザーが現在どのような意向や関心を持っているかを示す情報が「インテントデータ」。市場のニーズや動向を理解し、ターゲットに合った施策を計画するための価値ある情報源である。ユーソナーはこのインテントデータを収集・提供し、潜在顧客のターゲティングに寄与する。

ユーソナーはAIを活用したターゲティングも支援する。今までの経験値で想像できる企業しかセグメントできないと、ターゲットは狭まってしまう。しかしAIは新しい視点を与えてくれ、新しい業界・業種から脈アリ企業を見つけることができる。インテント、AI、企業特徴など条件を重ねることで濃いデータを抽出することができるのだ。
AIを使う場合も、土台となるデータ整備やエンハンスが必要だ。整っていないデータでは不正確な内容や偏った結果になるが、ユーソナーのように土台となるデータが充実し整っていればAIも最大限に活用できる。例えば弊社は、上場を機に所定労働時間を8時間から7時間に変更したものの売上高は対前年比で約15%伸びた(2025年12月)。ユーソナー活用の成果と捉えている。導入企業の(株)USEN ICT Solutionsでは、ターゲティング工数を約7分の1に短縮し、インテントデータの活用で解約防止と成約率UPも実現した。
(株)ダスキンは、ユーソナーとSalesforceを連携、データ整備の工数が約80%カットでき、アポ獲得率は約160%UPとなった。これには、先述したWeb来訪履歴によりどの企業がどの商品・サービスに興味を持っているかをリアルタイムで可視化する「ライブアクセス」や、弊社のデータベースLBCの「系列情報」の活用も寄与した。
■特別講演(1)
営業は企業価値そのもの
~AI時代における営業革新と“付加価値創出の再設計”~

株式会社カクシン 代表取締役CEO
『付加価値のつくりかた』著者
田尻 望 氏
京都市出身。大阪大学基礎工学部卒業後、(株)キーエンスにてコンサルティングエンジニア、国内外の販売促進技術に従事。2017年の創業以来、企業の高収益・高賃金を同時に実現する独自メソッドを開発し、シン・マーケットイン®型経営実現のための付加価値戦略コンサルティングおよび人財育成事業を展開。現在は「成果にコミットするコンサルティングファーム」を掲げ多数のコンサルテーションを実施。売上2兆円超の企業から中堅企業まで、規模を問わず成果を創出。特に、中堅IT企業を4年で従業員数ほぼ横ばいのまま年商45億円から88億円へ成長させるなど、投資額以上の価値を生み出すことに定評がある。近年は、エンジニアとコンサルタント双方の知見を活かし、付加価値に直結する生成AI活用の仕組みを提唱。AIアバターを活用した営業トレーニングシステムを開発し、構造化された組織育成を実現するAI活用コンサルティングを提供している。
◎価値主義経営Ⓡ付加価値を高め高収益を挙げていく秘訣
営業利益率が高いキーエンスのような会社は、付加価値戦略と差別化戦略を同時に行い、それらが社内だけではなく顧客にきちんと伝わっている。平易な言葉でいえば、“御社の役に立ちますよ”戦略と“他社ではできません”戦略だ。
我々がビジネスにおいてすべきことは、仕入れたものに対し付加価値を創り上げ、それをお客様に買ってもらい使ってもらい、その価値を感じていただくこと。その差分(仕入れと購入価格と顧客の得る価値)こそが、私たちの命の時間を使って創り上げるもの。それが付加価値で、利益だ(キーエンスの創業者の言葉より要約)。
キーエンスが作る新製品の約70%は、世界初や業界初だ。これだけの高率は“再現性”を持って作っているからこそ。付加価値はどこにあるのか?常に考えたい。顧客のニーズを超えた部分は“ムダ”であり、作っても、話してもいけない。
顧客の顕在ニーズは原価+付加価値。より深い付加価値+まだ作られていない付加価値(新創造価値)=顧客も気づいていない潜在ニーズ。キーエンスは、アイデアによりその潜在ニーズをソリューションとして提案・提供することが上手くできている。顕在ニーズの部分は(利益率の低い)相見積もりとなるが、潜在ニーズの部分はそうならない。
価値主義経営の構造については以下のスライド参照。

(1)のニーズ探索が重要である。営業担当はプロービング(徹底的なヒアリング)を行い、ニーズを明確に理解しなければならない。導入にあたり考慮したいニーズ⇒具体的に何?⇒なぜ重要(ニーズの裏のニーズ)⇒ニーズを産んだ顧客の状況背景、とヒアリングを進め、深掘りしていきたい。
法人・会社における価値とは、生産性の向上/財務の改善/CSRの向上/コストの削減/リスクの回避・軽減/付加価値のアップ、である。これらはすべて終わりがないため、深掘りが続けられる。また、御用聞きと問題解決(ソリューション)を分ける観点でもあり、顕在ニーズを発見し提案し続けるポイントとなる。
ニーズの裏のニーズの深掘りに終わりはない⇒そこまで聞いて、潜在ニーズまで知ってくれているのはあなただけ、という構造ができる⇒相見積もり排除・競合打破、という流れができるのだ。また、今回の商品提供だけでは解決しきれない※終わりがないという構造ができる⇒アップセル・クロスセル・中長期の取引の種になる。
こうしたことを知り、体系づけてトレーニングすることで営業の“再現性”が高まる。こうした情報をSFAにどのように体系的に記録し、抽出し、活用するのか、そしてニーズの裏のニーズ・状況背景まで分かってくれていると顧客から思ってもらえていることが重要だ。AI時代においても時間のかかる信頼関係を構築できている。そんな営業担当が多くいると、確実に勝っていける会社となる。
■課題解決講演(2)
AI時代の営業戦略

株式会社アイドマ・ホールディングス
マーケティング事業部 事業部長
濱田 裕 氏
2009年に東京国税庁に入社。入社後は主に法人税の調査に従事する。調査においては、悪質な脱税犯を取り締まる特別な管理部でリーダーとして職務にあたる。しかし、公務員は実力主義での評価制度ではないことに違和感を感じ、10年務めた国税局を20年4月に退社。自身の市場価値を高めるため、20年5月に(株)アイドマ・ホールディングスに入社。入社後は会社から与えられたミッションをクリアし続け、1年でチーフに任命される。その後、インサイドセールス部隊の統括として毎月目標達成を実現し、会社上最短で課長に昇進。現在は、月間6000件の経営者のアポイントを取得するマーケティング・インサイドセールス部門の他、顧客支援の中核を担うコールセンター全体の統括としてマーケティング事業部事業部長を努めている。
営業とは、認知を広げ、見込み客との接点を作り意思決定へと導く活動である。人が“モノ”を買う際の心理は、関心→興味→連想→欲望→比較→信念→決意、と移り変わる。特に中小企業は自分たちからアプローチをしていく必要があり、関心を得るためのキッカケをどうつくるかが重要だ。
約8割の顧客層が特定の商材・サービスを認知していない「潜在ニーズ層」であり、アウトバウンド型営業によってアプローチが可能となる。アウトバウンド型営業とは電話やファクス、メール、DMなど。なお、Webや問い合わせ、展示会、紹介などでのインバウンド型営業では顕在顧客にしかリーチすることができない。
AIが普及する時代の営業活動では、人間とAIが行うことの棲み分けをしっかり行うことが大切だ。AIに委ねることとしては、(1)戦略(2)アプローチするための文面(3)リストを作成する(4)アプローチを実行する、が挙げられる。
弊社が提供するAI営業ツール“Aim sales”はそれぞれの企業に最適なメールを生成。リスト作り・メール送信・クロージングまでボタンひとつで完結する新時代の営業ツールだ。機能としては、AIターゲット選定、AI営業文面作成、マルチチャネル対応、A/Bテスト機能、自動フォローアップ、データ分析、などがある。※デモンストレーションあり
弊社はボイステック領域にも力を入れている。「AI家電デジタルワーカー」は、人的リソースを活用することなく、家電を行うことが可能だ。AIデジタルワーカーが見込み客開拓を行い、ニーズがある先に人がクロージングする無駄のない仕組みを作ることが可能になる。
AIが、1日2000コールし5件アポイントを獲得できる、という弊社実績がある。アポイント取得だけではなく、資料送付、リード開拓、死活調査にも寄与する。※デモンストレーションあり

AIが情報を整理し、人が活用することで営業力を加速させることができる。
■課題解決講演(3)
AIで成果が出る組織、出ない組織。何が違うのか

SALESCORE株式会社
セールス&マーケティング本部 本部長
砂場 亮志 氏
新卒で(株)キーエンスに営業職として入社。マーキング事業部に所属し、主に食品メーカー様や薬品メーカー様向けに賞味期限やロット番号の印字を行うインクジェットプリンター専任営業担当として従事。その後【再現性をもつ営業組織】をつくりたいという思いからSALESCOREに入社。SALESCOREではセールス&マーケティング本部本部長を務める。
AIを試した企業は8割以上あるが、本番で動かして収益成長に繋げられたのはわずか5%、という調査結果がある。成功率は低いが、成功した企業の要因は、(ツールの性能や技術基盤の変革ではなく)70%が「人とプロセスの変革」であった。
成果を分けるのは“順番”だ。第1ステップで組織を作る。その上に第2ステップとしてAIを乗せる。組織基盤が整った後にAIツールを導入・活用する。この順序でAIを導入すると、成功の確度は上がる。
また、定着負荷(新たな戦略や施策を組織に根付かせる際にかかる、時間的・心理的な不可)を小さくし、組織実行力(新しい取り組みを実行・定着させる、組織の許容量)を上げること。それが成功につながる。
定着負荷を下げるにはまず、イネーブルメント仮説を見つける(負荷対効果を最大化するテーマ選び)ことである。「全部やる」を「これだけ」に変えるのだ。例えばSFAの導入では、営業やマーケ、営業企画、納品部門それぞれの希望や要望は異なり、全てを実行すると運用負荷が跳ね上がって形骸化しやすい。
イネーブルメントは“できるようにする”という意味。「一部の人はできているが、全員にはまだ広まっていない行動」のうち、売上に効きそうなものをできるようにする仮説を見つけたい。その4要件は、N1=実際にできている人がるか、机上の空論ではないか/余地=組織の中でバラつきがあるか/再現性=学習・模倣が可能か/売上貢献=それが広まったら本当に数字に効くのか、である。※事例紹介あり
イネーブルメント仮説の良好な答えは、自組織の中にある。(1)データから「当たり」をつける(定量データを分析し観察すべき対象を絞り込む(2)現場から「良い行動」を仕入れる(ハイパフォーマーの暗黙知を引き出す)ことだ。
(1)では、まず受注率・平均単価・商談件数などKPIの個人差を分析⇒この商品・KPIだけ受注率や達成率が高い人は誰かを特定⇒誰にインタビューすべきか、誰の商談録画を確認すべきか絞り込む。
(2)では、本人が把握していないハイパフォーマーの暗黙知を、設計されたインタビューにより明らかにしていく。時にローパフォーマーにヒアリングすることも有用だ。そして、それらを先述のN1/余地/再現性/売上貢献の項目を立てた「イネーブルメント仮説抽出シート」にまとめていく。
実行のリズムをつくる=意思に頼らない仕組みを作り上げることも重要だ。宣言(毎日の朝会)⇒実行⇒振り返り(毎日の夕会)、といった日次の習慣としてチーム会議体を設計する。宣言効果とは、自分の意思を他社の前で口にすると、その言葉と実際の行動の間に一貫性を保とうとする心理が働き、実行確率が上がる行動科学。朝会での宣言効果は大きい。
夕会の目的は、未達の改善と成功の横展開である。未達を詰める場ではなく、達成に向かって動かす場、どうすれば明日はできるようになるかを一緒に考える支援の場なのだ。また、例えば「外部要因で止まった」といった報告があった場合、マネージャーは「代わりに今日、何を前進させられた?」という問いを当てることも必要である。

■特別講演(2)
AI時代の超鬼速PDCA
~勝ちパターンを“秒で量産する”営業実行モデルの回し方~

株式会社ZUU 代表取締役社長
『鬼速PDCA』著者
冨田 和成 氏
一橋大学卒業後、野村證券に入社。入社初期より多数のオーナー経営者を新規開拓し、トップセールスとして数々の最年少記録を達成。営業実績を評価され、東京およびシンガポールにて、超富裕層や大企業オーナーを対象とするプライベートバンキングおよびコーポレート・ファイナンス業務に従事。資産戦略から資金調達までを一気通貫で支援する高付加価値営業として実績を積み上げる。2013年、金融領域のDXを推進する株式会社ZUUを創業。創業5年で東証マザーズ(現グロース市場)上場を実現。25年には創業60年を超える(株)経済界をグループ会社化し、代表取締役社長に就任。営業・経営の両視点を活かし、新時代のメディアと経営者コミュニティの再構築に取り組む。現場で磨いた営業力と再現性あるメソッドを武器に、講演・執筆など幅広く活動している。
営業の世界では不可逆的な変化が起きている。以前は、属人的な勘と経験に依存/勝ちバターンの再現性なし/月1回転(年間12回転)であった。しかし、AI/AIエージェント時代の今は、勝ちパターンをAIで秒速量産/組織全体で再現可能な型を共有/週1回転(年間50回転)となった。
PDCAについては、管理・改善のフレームワークや順番通りに一人で回すものではなく、以下だと認識いただきたい。自分の成長エンジン/ゴール達成の仕組み/常に同時並行で回る/大中小3階層で日次まで/成功要因分析が最重要/組織で回して威力倍増──。この共通認識で、スタートラインに立ってほしい。
「鬼速PDCAサイクル」の全体図は、以下のスライドを参照。

◎計画を“秒速”にする-AI×因数分解の破壊力
営業プロセスは、送信→アポ→ニーズ喚起→提案→検討→成約、という流れだ。その各ステップを「量」×「質」で分解したい。例えばメール送信なら量(行動指標)を月200件から300件に。質(転換率)を15%から20%に上げる。量を上げるAIもあれば、質を上げるAIもある。コツは、抽象度を上げてから分解→5段目まで深掘り→質×量で切る、である。
P(計画)を超鬼速にするAI活用について。計画策定の時間をAIにより100分の1にすると、回せるPDCAの本数が桁違いに増える。ゴール設定においては複数のゴール案を提示しSMART※で具体化。課題絞り込みでは多角的に課題を洗い出し、インパクトで優先順位をつける。解決策立案においては、解決策を10個生成し、成功事例から抽出もする。人間の役割は「これは違う」「ここを深掘り」の編集だけとなる。
※SMART(フレームワーク)目標を具体的かつ達成可能にするための設定手法。S(Specific=具体的に)M(Measurable =測定可能な/数値化)A(Achievable=達成可能な)R(Relevant/Related=経営目標やビジョンとの関連性)T(Time-bound=期限が明確)
計画PLANのAIプロンプト例を紹介する。ゴール設定において「売上を伸ばす目標案を出して」「SAMRTフレームでゴールを作成して」というプロンプトをAIに入力する。課題の絞り込みにおいては、「インパクト×実現可能性で採点して」「スコア上位3つを選定して」と入れる。このように因数分解の型を渡せば、KGI⇒KPI⇒課題⇒解決策が数分で完成する。背景データをAIにあらかじめ与えておくと、精度が高まる。
◎実行・検証・調整-AIで“回転数”を上げる仕組み
D(実行)のAI活用について。例えば以下のプロンプトを入力する。タスク分解においては「解決策のステップを細分化してスケジュールを作成して」。進捗管理においては「週次の進捗確認チェックリストを作成」。KDI(Key Do Indicator)では「やったかどうかを数字で追う行動指標を作って」。ただし、計画がない、計画が粗い、タスクまで未分解だとAI活用が実行できない。
C(検証)の達成状況の即時分析では「データからトレンドを指摘して」、フィードバック効率化では「成功要因と改善店を分析して」。A(調整)のナレッジ蓄積では「今回の学びをまとめて」、プロセス最適化では「最も時間を要するフェーズは?」などと入力する。最も重要なのは「なぜうまくいったか」の成功要因分析である。
◎営業組織で“勝ちパターンを量産する”実装法
(1)AI活用(全フェーズでAIを使い回転速度を桁違いに)(2)習慣化(意志力に頼らず仕組みで毎日回す)(3)組織拡大(暗黙知をAIで言語化・標準化)──これが“3つの加速レバー”だ。Sales=Data×Content Dataである顧客・行動データはAIが分析・パターン抽出してくれる。Contentである提案書・トークはAIが生成・最適化してくれる。
週次PDCAの実装としては、月曜に計画(AI因数分解→3分)⇒火~木曜にKDI実行→日時数値集計⇒金曜に検証→調整→翌週計画へ。これで、週1回転=年間50回転。月1回転(年12回転)の4倍以上が実現する。
AIエージェント化においての私の最近の所感については以下を参照してほしい。

2026年5月27日(水) 会場対面・オンラインLIVE配信のハイブリッド開催
source : 文藝春秋 メディア事業局

