「コロナでムダ、ムラ、ムリがわかった」

有働由美子のマイフェアパーソン 第19回

似鳥 昭雄 ニトリホールディングス会長兼CEO
ビジネス 企業
news zeroメインキャスターの有働さんが“時代を作った人たち”の本音に迫る対談企画「有働由美子のマイフェアパーソン」。今回のゲストはニトリHD会長の似鳥昭雄さん。コロナ禍でも業績絶好調の秘密から夫婦喧嘩の裏側まで〝舌〟好調で語りつくした!

コロナの逆風でも2割の増益

 有働 ニトリの3〜5月の連結決算は2割の増益で、コロナの逆風をものともせず絶好調ですね。1987年からずっと増収増益で成長を続け、この4月も34期連続となる増収増益を目指すと発表されました。会長は、どんなステイホームを過ごされていましたか。

 似鳥 普段は札幌にいる家内と東京で過ごすようになって、監視状態ですね(笑)。僕は色んな人と会って話すのが好きだから、以前は会食などにもよく出掛けていましたが、糖尿病で高血圧もあるので、「コロナなんだし我慢しなさい」、と。そろそろ放し飼いにして欲しいんですけど(笑)。

 有働 あら〜。

 似鳥 週末はゴルフを楽しむのが日常でしたが、コロナがはやりだしてからは家内と時々2人で行くくらい。むしろこれまでが異常だったと気づきました。代わりに週に1度、夜にマッサージを頼んで、まずは家内、それから僕がやってもらい、そのまま寝るというパターンが出来あがりました。

 有働 ずっと奥様と過ごすようになって、どうでした? 惚れ直されたりしました?

 似鳥 普段話さないことを互いに話せてよかったと思いますね。実はきょう結婚記念日で、結婚して52年になりますが、一緒にいる時間がこんなに長いことは結婚以来初めてで。生活スタイルや食べ物の好みの違いに気づくとか、初めて知ることばかりでしたね。ちょっとしたケンカになったら、「じゃあ、また明日」と自分の部屋に戻っています(笑)。

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似鳥氏

 有働 奥様の百百代さんとはお見合いで出会われたとか。

 似鳥 はい。僕はまるでダメなサラリーマンでね。樺太生まれ、北海道育ちで、地元の大学を出て広告会社でサラリーマンをやりましたが1年でクビになり、その後勤めた土木会社も半年でクビになった。路頭に迷ったときに、近所にない家具屋をやろうと、家族や親戚に100万円を借りて商売を始めました。正直なところ、人を雇う余裕がないから結婚したようなものなんです。

 有働 それは今だったら、なかなかの問題発言ですよ(笑)。

 似鳥 そうね(笑)。ところがお見合いをしても、商売をしている家だと夜は遅いし休みはないし、姑も一緒ということで、1人、2人……と立て続けに断られて。8回目のお見合いで家内と出会い、結婚しました。彼女が19歳、僕が23歳の時です。驚くことに、接客をさせたら僕より上手かった。僕は対人恐怖症で、お客さんに説明しようとすると、ダーッと汗が出るんですよ。僕一人では月30〜40万円だった売上が、家内が来てから2倍の80万円になり、1日に2度の食事ができるようになりました。だから、僕の第一の恩人は家内なんです。

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妻の百百代さん

あんたの出張は遊びだ

 有働 最高のお嫁さんですね。会長は対人恐怖症とのことですが、夜の街は大丈夫なんですか。

 似鳥 年とともに平気になりました(笑)。でもまあ今回、家にいたからこそ、できた発見もありますね。

 有働 例えばどんなことですか。

 似鳥 家内に「シーツを取り換えるのがとにかく大変だから、もっと伸びるシーツはないの?」と言われて、「あっ!」と。実は既にあったんですよ。でも、そこをPRしていなかった。調べてみたら、そのシーツは取り扱いのない店舗もあるし、置かれている店舗でも、目立たないところに陳列されていました。今は全ての店舗で目立つところに置くように改善したので、売上はグンと伸びるはずです。

 ニトリでは約1万4000ある商品の半数を、新規開発などしてどんどん入れ替えています。でも、商品を作って終わりで、売り方を考えていなかった。家内の一言で、ハッと気づきました。

 有働 自粛生活の中で、それまで気づかなかった商品のウリが見えてきたのですね。

 似鳥 僕はこれまで1年の半分は海外に行っていましたから、それがなくなった分、時間ができたので今まで人に任せていたことも含めて会社の実態を隅々までチェックしてみたら、「ムダ、ムラ、ムリ」が山のようにあって、それをずっと放置していたことにも気づきました。これは最大の発見でしたね。

 有働 「ムダ、ムラ、ムリ」の「3つの“ム”」は避けなければいけない、と(笑)。

 似鳥 例えば、海外出張。これまで商品部の半数にあたる約300人が商品開発のために月に1〜2度、年間約1万3000日も海外出張をして打ち合わせを重ねていました。今は、それを全てオンラインに切り替え、コミュニケーションなど工夫しながら商品開発をしています。今までの出張にムダがなかったか見直すべきです。ですからコロナが落ち着いても、出張は半分に減らせ、と言っています。経費としては年間数十億円ぐらい浮くんじゃないでしょうか。時間も随分浮くと思いますよ。

 有働 それは大きいですね。そのムダな出張の中には、会長の出張もあったんですかね?

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有働キャスター

 似鳥 はい、そうです(笑)。家内に言われました。「あんたの出張は遊びに行っているようなもんだ」と。コロナは大変でしたけど、創業の精神に立ち返って、もう一度ニトリをゼロから再構築する機会になりました。会社にとっても、私にとっても悪いことばかりではなかったと思います。

自粛警察はニトリにも

 有働 先日もお店の前を通りがかったら、たくさんのお客さんで賑わっていました。ステイホームで需要が増えているのではないですか。

 似鳥 国内にある553店舗のうち、緊急事態宣言中は、ショッピングセンターや駅ビルなどの大型商業施設に入っている最大110店舗を施設の休業に伴って閉めていました。それ以外の店舗はおかげさまで前年比120〜130%、全体でもプラスを維持できました。ただ、ネットでは「コロナをバラまくな」という書き込みや、「店を閉めろ」という電話やメールが毎日何百件とありました。多い時は1日2000件もあったんですよ。

 有働 「自粛警察」はニトリにも。

 それでもお店を閉めなかったのはどうしてですか。

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source : 文藝春秋 2020年8月号

genre : ビジネス 企業