金持ちがより金持ちになるという現実をコロナ・ショックは明らかにした。IT界の巨大企業は、世界中の企業がパンデミックで苦しむ中、ますます大きくなっている。ベストセラー『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』の著者が指摘する「不都合な真実」とは。
ギャロウェイ氏 ©kazumoto ohno
株価が過去最高を記録
新型コロナの感染拡大が止まりません。7月末の全世界の感染者は1600万人超、死者は70万人に近づいています。
人の移動が制限され、消費行動も抑制されているので、経済も大きなダメージを受けています。世界で最も感染者が多いアメリカでは、5月の段階で、失業保険を初めて申請した労働者が4000万人以上に達し、これは労働者4人に約1人の計算となります。
ところが、このような状況で、ますます勢いを増している企業もあります。Google、Apple、Facebook、AmazonといったIT界の巨大企業、いわゆるGAFAです。新型コロナのパンデミックで世界中の企業が苦しんでいるのを横目にますますパワフルになっています。
彼らは、莫大な資金を持っているので、他の企業が守勢に回らざるを得ない時でも攻撃的な姿勢をとることができます。ほとんどの企業は社員のレイオフや自宅待機を検討しているのに、GAFAは積極的に投資や買収を行っています。
アマゾンは6月末に自動運転のスタートアップであるZooxの買収を発表しました。買収金額は12億ドルとも言われています。
フェイスブックは4月にインドの大手携帯電話会社であるJioに57億ドルを投資しました。5月には動画の共有・検索サービスを手がけるGIPHYを4億ドルで買収したと報じられています。
フェイスブックもコロナの影響で主力事業であるインターネット広告の売り上げは落ちています。それでも株価は7月20日に245.42ドルと、過去最高を記録しました。
フェイスブックに限らずGAFAの強みは豊富な資金です。
例えば、航空業界はコロナで急激に業績を悪化させ、5月末のボーイングの時価総額はおよそ820億ドル、エアバスの時価総額が450億ドルでした。とてつもない金額ですが、グーグルは1200億ドルのキャッシュをもっているので、机の上の計算では、ボーイングとエアバスを買うことができたのです。
アマゾンのCEOであるジェフ・ベゾスは個人で1800億ドルを超える資産を持っています。NFLのチームすべて(820億ドル)を買収したあとでヨーロッパのトップ3のサッカーチーム(123億ドル)とViacomCBS(153億ドル)を買収できますね。さらにフェラーリ(347億ドル)を買収してもまだ余裕があります。
アップルはコロナの影響で、世界中の500の店舗をすべて閉鎖しましたが、それでも1月〜3月の4半期で583億ドルの荒稼ぎをしています。オンライン販売が強いからです。新しいiPhoneやiMac、MacBook Air、そしてウェアラブル製品とサービスも拡大しています。
アップルの時価総額は1兆6000億ドルを超えており、7月20日には株価が最高値を更新しました。iPhoneはビジネス史上、最も儲かるアイテムです。フェラーリのようなマージンで生産量はトヨタ並み。こんなアイテムは他にありません。
GAFAの株価はコロナでも高値
GAFAの「贖罪」
GAFAはコロナ禍にあっても成長、拡大を続けています。同時に、彼らはパンデミックを「贖罪」の絶好の機会としてもとらえて、非常に賢くふるまっています。
「贖罪」というのはどういうことなのか。
前回のアメリカ大統領選で選挙コンサルティング会社のケンブリッジ・アナリティカがフェイスブックの個人情報を使って情報操作をしたというニュースがありました。これでフェイスブックのイメージは大きく低下しました。
また、白人至上主義のグループがフェイスブック上で活動していることも以前から知られています。フェイスブックのCEOであるマーク・ザッカーバーグはこうした動きを禁止すると公言しましたが、実際は何もせず、彼らの活動はますます活発になっていました。
一般的にフェイスブックは激しい怒りや論争と相性がいいのです。そのため、物議を醸すテーマがフェイスブック上では大きな話題になりがちです。ワクチン反対派、白人ナショナリズム、気候変動否定論者などのメッセージが多くの人に届くことになります。
一部の人はこれを「表現の自由」の問題としていますが、そうではありません。これは世界最大のメディア・プラットフォームが非科学的、差別的なメッセージばかりを拡散していいのか、という問題です。こうしたメッセージを放置しているフェイスブックは差別と闘う世界、科学を信じる世界に対して、かなりのダメージを与え続けています。
最近でも新型コロナによるロックダウン(都市封鎖)に反対するフェイスブック・グループがウイルスに関するミスインフォメーション(意図的に間違った情報)を流したり、相変わらず陰謀説などの温床にもなっています。
黒人への手厚いサポート
そこで、フェイスブックは、そうした「罪」に対する贖罪として、まず新型コロナに関する正確な情報、重要な情報を伝えようと努めるようになりました。これについては非常に成功していると言っていいし、評価できると思います。
また、3月の段階で、新型コロナに苦しむ世界の中小企業を支援するために1億ドルを提供すると発表しました。
最近、暴力を賛美する発言の取り扱いについて態度を軟化させていることも贖罪の一環でしょう。
5月に黒人のジョージ・フロイド氏が白人警察官による暴力的な拘束で死亡した事件は全米に大きな衝撃を与えました。トランプ大統領が「略奪が始まれば銃撃も始まる」と抗議者に発砲することを容認するような投稿をすると、ヘイトスピーチだと非難する声があがります。
当初、ザッカーバーグは投稿を削除せずに静観していました。しかし、その後、フェイスブックから広告を引き上げる企業が出てきたことで「有害な可能性のある投稿にはラベル表示する」と方針を転換しました。
フェイスブックは黒人へのサポートも表明しています。ジューンティーンス(Juneteenth)は1865年6月19日、全米で最後に奴隷解放を受け入れたテキサス州で奴隷が解放された日です。その日を祝して、フェイスブックは貧困や人種問題に取り組む非営利団体であるイコール・ジャスティス・イニシアティブをサポートしている団体に、500万ドルを寄付しました。また、2023年までに黒人とラテンアメリカ系の従業員を倍増するとしています。
グーグルも黒人によるビジネスや起業家をサポートするために1億7500万ドルを使うと発表しました。アップルも負けてはいません。「人種的公平と正義のイニシアティブ」を立ち上げ、1億ドルの予算を組み、さらに黒人が所有する企業をサプライチェーンに入れると公表しました。
このように、GAFAはお金儲けしかやっていないという悪いイメージを払しょくし、自分たちは世界がいい方向に進むように努力している、という姿勢を見せるのに必死になっています。
しかし、たとえ、彼らがこうした「贖罪」行為を行っていても、われわれは目を光らせ続ける必要があります。
危険なザッカーバーグ
フェイスブックは世界中のあらゆる情報が行き来する巨大なプラットフォームですが、CEOのマーク・ザッカーバーグという一人の人間によって実質的にコントロールされています。もちろん取締役会はありますが、彼と異なる意見を持っていたり、世界を憂慮している取締役はなぜか在職期間が満期になる前にフェイスブックを去ってしまいます。
たった一人の男がコントロールしているこのプラットフォームには、毎日17億人もの人がアクセスしています。そして、この男はソシオパス(社会病質者、人格障害のために社会的に好ましくない行動を示す)的な傾向を持ち、アメリカという国の健全さにはまったく関心がありません。ましてや世界のことなど、もっと興味がないでしょう。
ジョージ・フロイド事件のときのザッカーバーグのとった態度を思い出してください。フェイスブックが差別を助長していると批判されても何もしませんでした。会社の姿勢に抗議する自社社員の声にも耳を傾けませんでした。
騒ぎが大きくなり、多くの企業がフェイスブックから広告を引き上げたことで、ようやく彼は動いたのです。
世界はパンデミックの真っただ中にあります。この危機を乗り越えるためには、世界が一丸となることが必要です。しかし、激しい競争を勝ち抜いてきた人間は貪欲であることが「善」であると心底思っています。ビジネスという競争世界で、自己中心、冷酷無情といった性質を持つ人物が企業のトップにいることは別に驚きではありません。ザッカーバーグがまさにいい例です。
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source : 文藝春秋 2020年9月号