「AI革命への投資会社になる」。11月9日、ソフトバンクグループの孫正義会長は決算発表の場でこう語った。2020年4~9月期の純利益は前年同期比約4.5倍の1兆8800億円と過去最高を記録。1兆3600億円という巨額赤字を出した2020年3月期決算からV字回復を果たした。孫氏は「AI革命」に向けてどんな戦略を練っているのか。2005年から8年間にわたりソフトバンクの社長室長を務め、「孫正義の参謀」と呼ばれた嶋聡氏が読み解く。
ソフトバンクの「一本足打法」
私がソフトバンクを離れて5年以上が経ちましたが、先日、久しぶりに孫さんに連絡をしました。十二指腸のがんにかかってしまい、9月13日に「手術をします」と報告したのです。多忙を極めるはずですが、わずか3分ほどで返信がありました。「驚きました。現代医療の力で、手術の成功を祈っています」と。11月に入り、無事、退院したと伝えた時も「おめでとうございます。現代の医療は進歩していますから、これからも頑張ってください」と丁寧な返信がありました。
メールを受け取った直後は私への励ましかと思いましたが、どうもそれだけではないようです。この文面には「AI革命」に向けた孫さんの信念が込められていたのです。
孫さんはこれまで、トヨタ自動車と提携して自動運転の会社を立ち上げるなど、モビリティ分野に積極的に進出してきました。世界のGDPの11%を占めるモビリティ分野がAI革命の柱の一つであることは間違いありませんが、孫さんの狙いはこれだけではない。今後、力を入れていくのがGDPの10%を占めるメディカル分野です。
最近、ソフトバンクによるPCR検査やマスク、防護服の提供などに注目が集まっていますが、孫さんはかねてから医療分野への投資を続けてきました。たとえば1億ドルを出資しているバイオフォーミスという米国のベンチャー企業。ここはAIで臨床データを分析し、心不全を2週間前に99%の正確性で予知することができます。また、3億ドル超を投じて筆頭株主となったガーダント・ヘルスは、血液を使ったがんの遺伝子検査で8割を超えるシェアを誇ります。孫さんは医療分野への投資を通じてがんや心不全などあらゆる病気を無くそうとしている。これが「AI革命」なのです。だからこそ、私へのメールで2度も「現代医療の力」を強調したのでしょう。
こうした投資はソフトバンク・ビジョン・ファンドを通じて行われています。2017年にサウジアラビアの王子と組んで作った鳴り物入りのファンドですが、2019年下半期は215億円の含み損を抱えていました。ところが、2020年上半期では1兆3900億円の黒字で、好調な決算の原動力となったのです。
ただソフトバンクグループが持つ約30兆円の総資産のうち、20兆円が中国のネット大手アリババグループの株で、いわば「一本足打法」です。仮にアリババ株が10%値下がりすると、2兆円もの含み損を抱えてしまう。
この「一本足打法」の危険性はしばしば指摘されてきましたが、孫さんはこれまでリスクを取って成功を収めてきた自負を持っており、そんな批判はどこ吹く風です。若い頃にビル・ゲイツから面と向かって「あなたはリスクテイカーだ」と言われたことがあるそうで、「そう言われたことは私の誇りなんです」と繰り返していました。コロナ禍で市場の行方は依然として不透明ですが、根っからのリスクテイカーである孫さんはむしろやる気満々でしょう。
今後も積極的な投資を進めていくために、ポイントとなるのが携帯電話事業の位置付けです。これについては孫さんと議論を交わしたことがありますが、参考にしているのは投資の神様と言われるウォーレン・バフェットです。バフェットは保険会社も経営しており、そこで得た利益を元手に投資を行っています。ソフトバンクも同じで、携帯事業は2020年上半期で約5900億円の営業利益を出している。ビジョン・ファンドが積極的に投資をする上で、携帯事業の儲けは重要なのです。
孫正義・会長兼社長
「地図」で腹落ちさせる
今回、あえて「AI革命」というメッセージを打ち出したのは、孫さんならではのリーダーシップが隠されていると思います。それを読み解くうえで参考になる逸話があります。
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source : 文藝春秋 2021年1月号