11月13日、ノンフィクション作家の髙橋秀実さんが急逝されました。62歳の若さでした。
髙橋さんは2011年、自身のルーツ探しの旅を綴った『ご先祖様はどちら様』(新潮文庫)で小林秀雄賞を受賞。カナヅチの髙橋さんがスイミングスクールに通った体験を描いた『はい、泳げません』(新潮文庫)は、2022年に人気俳優・長谷川博己さん主演で映画化されました。夏の高校野球東東京大会でベスト16に進出したこともある開成高校野球部・青木秀憲監督の、「守備を捨てて打撃に集中する」という独特な指導方法に焦点を当てた『「弱くても勝てます」 開成高校野球部のセオリー』(新潮文庫)。こちらは二宮和也さん主演でドラマ化されています。
その髙橋さんの思わぬ“絶筆”となってしまったのが、文藝春秋2025年1月号掲載の「そもそもAIって何ですか?」です。
これまで髙橋さんは長年、「そもそも」を探る取材をされてきました。『おすもうさん』(草思社)では「国技」「神事」とされる相撲を生業としている力士たちは普段、どんなことを考えて暮らしているのかを描き、『からくり民主主義』(新潮文庫)では、賛否が入り乱れる沖縄県の米軍基地問題を取材して、基地が返還されると困る人たちが地元住民の中にいるのは一体なぜなのかを探りました。今回は、AIが続々と社会に実装されつつある中で、AIとはそもそも何なのでしょうかという素朴な疑問が出発点でした。
スマホで知りたい事柄を検索すればAIが要約して解説してくれますし、NHKではニュースを「AI自動音声」が読みあげ、出版界でも生成AIが生み出した美女の写真集がベストセラーになっています。何か悩みがあればCotomoなどのAIアプリがいつでも人生相談に乗ってくれたりもする。そんな現代で、「そもそもAIって何ですか?」と、“デジタルに疎い”と自称する髙橋さんが、ChatGPTをいち早く導入した横須賀市役所の担当者やAI活用を訴えて先日の都知事選に立候補した安野貴博さんなどの専門家を尋ねていくことになりました。
こうした、髙橋さんが“最新技術”の「そもそも」を探る記事は、私も編集担当として何度か関わってきました。「考えるルポ 人間はロボットと暮らせるか」(2017年1月号)では、安倍晋三首相が「ロボット革命を起こす」と語り、シンギュラリティーが遂に起こると言われていた時代に、AIを使ったロボットが導入されている現場に行ってきました。有名なところでは「変なホテル」があります。「初めてロボットがスタッフとして働いたホテル」としてギネス世界記録に認定された次世代型ホテルで、いまでは全国にありますが、当時はまだ長崎のハウステンボスにしかありませんでした。
変なホテルで髙橋さんはロボットとのコミュニケーションに悪戦苦闘を続けます。フロントの女性ロボット・夢子ちゃんに、チェックインのために名前を告げてもなかなか反応してくれず、部屋に設置されていて、モーニングコールを設定したり、照明のオンオフをしてくれるロボット・ちゅーりーちゃんとは話が噛み合わない。ロビーにいるコンシェルジュロボットのNAOくんとは、コンビニの場所を聞きだすのにかなり時間を要しました。真面目な取材でしたが、いま思い出しても、髙橋さんとロボットのやり取りには、笑いがこみ上げてきます。
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