2017年に抹殺されかけた2人は、同じステージで頂点に君臨した——。「しゃべらない漫才」異色のM-1王者の内面に迫る。
漫才の革命児
客席から時折「ひぃーっ!」と苦し気に息を吸う音が漏れる。
ステージでは、長髪の男が床の上に背中を付け、激しくのたうち回っていた。
それだけなのに客は呼吸もままならぬほどに笑い転げている。
2020年12月20日、漫才日本一を決めるM-1グランプリの最終決戦。そこに残れるのは、決勝に出場した10組のうち、ファーストラウンドを勝ち抜いた3組のみ。2番目に登場したのは、結成14年目のマヂカルラブリーだった。
2人が披露したのは「つり革」と呼ばれるネタだった。
「負けた気がするから、2度と、つり革つかまらないわ」
そう宣誓し、大きく揺れる電車の中で、つり革につかまらない男を演じるのは、アヤシイ雰囲気を漂わせるボケ役の野田クリスタル(34)。
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source : 文藝春秋 2021年3月号