次世代のグローバルリーダー人材を育てる上智大学。新型コロナウイルスの感染拡大で人の移動が制限される中、学びをいかに支えているのか。東南アジアにおける同大のグローバル教育の展開と取り組みを聞いた。
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ASEAN共同体が発足し、発展を遂げる東南アジア。そのハブとして機能するバンコクは、国連や国際開発金融機関などの国際機関の事務所が集積し、高等教育においても重要な拠点となっている。近年、上智大学はバンコクを拠点に東南アジアをフィールドとした教育を展開してきた。2019年には同大が出資し、バンコクに日本の教育機関で初めてとなる株式会社Sophia Global Education Discovery Co.,Ltd. (Sophia GED) を設立。東南アジアの企業や大学・高校、国際機関と連携し、短期留学プログラムの企画・実施、協定校の発掘、高校生の探究学習支援などの教育事業を展開している。
同社代表取締役の廣里恭史教授は「バンコクの“地の利〟を生かし、魅力ある先駆的な教育・研修プログラムの構築を手がけています。そこで我々が目指すのは、グローバルな学習コミュニティの創出です」と話す。
上智大学グローバル教育センター教授 兼 Sophia GED 代表取締役
廣里恭史氏
すでに上智大生向けに国際機関のエキスパートから直接講習を受けられるバンコク国際機関実地研修や、タイやその周辺国を陸路で巡るメコン経済回廊スタディツアーなどの実践的なプログラムを企画・実施し、実績を重ねてきた。
渡航制限の中で国際機関や協定校と協力
しかし新型コロナウイルスのパンデミックにより、昨春以降の事業は中止を余儀なくされた。「留学に向けて準備してきた学生は大変なショックを受け、我々としても忸怩たる思いでした」と廣里教授は振り返る。そこでSophia GED では国際機関や協定校などと連携し多角的なオンラインプログラムを実現した。
例えば今年2月にはバンコク国際機関実地研修をオンラインで開催。職員がレクチャーを行うだけでなく、JICAタイ事務所との連携により、タイ内務省の協力を得て、地域コミュニティの起業家と日本の上智大生をオンラインで結ぶ擬似フィールドワークも実現させた。
また、タイ、マレーシア、フィリピンの上智大学協定校と協力し、同大を含めたアジア5大学の学生らが討論するオンラインサマープログラムも実施。期間中、連日100人を超える学生が参加し、大いに盛り上がった。同社が目指す「グローバルな学習コミュニティ」がオンラインで実現した格好だ。
新たなグローバル学習の可能性も見えてきたが、廣里教授は「学生たちには現地に赴くことでしか得られない体感を大事にしてほしい」と強調する。
「いずれ東南アジアは生活圏の一部となっていくでしょう。そこで東南アジア諸国と未来志向の関係性を創り出していくのは、グローバルな環境で学んだ若者たちに他なりません。コロナ収束後の留学再開も視野に入れながら、新たな連携先の開拓などに取り組み続けます」
世界の実情を知るグローバル人材は、コロナ収束後の世界の架け橋となるはずだ。そのための学びを、今途絶えさせるわけにはいかない。
東南アジア留学を体験した学生たちの声
大塚龍二朗さん
文学部新聞学科4年次生(※)(2019年度のメコン経済回廊スタディツアーに参加)
ステレオタイプな途上国観を打ち砕かれた
閉塞感の漂う日本に対して、発展途上にある東南アジアには希望に溢れた「元気な景色」があるに違いない─そんな期待からツアーに参加しました。結果、自分がいかに短絡的であったか気づかされました。カンボジアの経済特区では開発を計画し活気づく一方、タイでは高齢化が始まり、日本と同じように未来に不安を感じている若者も多くいました。日本と異なるのは、学生たちが、自分たちが国の未来を創っていくのだと自負していること。日本で当たり前のように進学した私にはないものでした。未来は、自らの手で切り拓くことができるのです。いずれは世界中の人々の不安も解消できる人間になるべく、努力を重ねていきます。
タイや周辺国を巡り五感で国の実情を学ぶスタディツアーも実施
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高橋遥奈さん
総合人間科学部教育学科3年次生(※)
(2019年度のバンコク国際機関実地研修/2020年度のオンラインサマープログラム「東南アジアに学ぶ:強靭で持続可能な未来社会の共創」に参加)
世界中の同世代がともに協働するパートナー
「人々の人生の充実に貢献したい」というのが私のビジョンです。国際機関実地研修は世界における日本を客観的に捉え直す貴重な機会となりました。またタイやラオスの街を歩き、現地のインフラや人々の生活を実際に見たことは、実情を踏まえて物事を理解するために必要不可欠だったと思います。昨夏にはオンラインサマープログラムにも参加。距離を超えて日本と東南アジアの学生が一堂に会して討論するうちに、私たちの間に隔たりはなく、ともに課題解決のために協働するパートナーなのだと気付かされました。今後、同世代の仲間たちと連携し、国際社会を構成する一員として、課題を抱える当事者に近い立場で解決に貢献していきます。
国際機関のエキスパートから講義を受ける学生ら
(※)学年はインタビュー当時のもの
(お問い合わせ)
学校法人上智学院 総務局ソフィア連携室
メールアドレス:sophia2013-co@sophia.ac.jp
☎03-3238-3198
SOPHIA未来募金ウェブサイト
http://sophia100.jp
source : 文藝春秋 メディア事業局