きれいごとではなく本音の医療が始まる
みずからが望む最期、とりわけ多くの人々が口にする「穏やかな死」を迎えるには何が必要か――。
実は、誰もがいずれ必ず直面する人生の最終局面をめぐって、最近、看取りを含めた医療のあり方が劇的に変わろうとしている。変化の背景には、医療現場が抱える矛盾や葛藤を解消すべく、対策に本腰を入れ始めた国の後押しもあった。
今年3月、厚生労働省は「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」を策定、公表した。11年ぶりにリニューアルされた今回の改訂版では、「最期まで本人の生き方(=人生)を尊重し、医療・ケアの提供について検討することが重要」との観点から、これまでの「終末期医療」が「人生の最終段階における医療」へと名称変更されたほか、諸外国で普及しつつある「ACP(アドバンス・ケア・プランニング)」なる概念も盛り込まれている。
ACPとは、人生の最終段階における医療や介護の方針について家族や医療チーム、介護チームなどと事前に繰り返し話し合うプロセスのこと。実は、すでに日本でも、望ましい最期について、本人が「ACPチェックシート」に自分の意思を事前に記入しておく取り組みが一部の医療機関などで始まっているほか、開業医らでつくる日本医師会でも、ACPによる事前の意思確認を「かかりつけ医」に平素から担ってもらう試みがスタートしている。
望ましい最期を迎えるための国の取り組みが始まったのはおよそ30年前のことだが、大きな転換点となったのは、2006年に富山県の射水市民病院で表面化した「人工呼吸器取り外し事件」だった。末期がんを含む回復の見込みがない患者7人の人工呼吸器を取り外した医師らは不起訴となったが、同事件を機にいわゆる「尊厳死」のルール化へ向けた議論が厚労省内でも活発化。具体的には、終末期医療の決定プロセスのあり方に関する検討会などでの議論を経て、前述した今年3月の改訂ガイドラインの策定、公表に至ったのだが、その一方で終末期医療の現場は、矛盾や葛藤を抱えながら理想と現実の狭間で揺れていた。
「私に殺人を勧めるのか!」
実際、この間の私にも、身内が直面した人生の最終局面をめぐり、身につまされる出来事があった。
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source : 文藝春秋 2018年10月号