「Agree to disagree」の姿勢も大事だ
ハラリ氏
民主主義は脆弱なシステム
――中国はアメリカから世界の覇権国としての地位を奪おうとしています。最近、習近平国家主席はロシアのプーチン大統領と会談した際、「新しい世界秩序」を形成するという強い願望を述べ、2つの反欧米国家がcommon cause(共通の大義)で結びついていることを世界にアピールしました。
ハラリさんは、共産党が支配する国が将来も繁栄を続けることはあるとお考えですか。日米英豪が進める「中国包囲網」、そして団結して台湾を護ろうとする西側の動きをどう見ていますか。
ハラリ 中国はこの30年間で経済面、軍事面、外交面でアメリカの競合相手として台頭してきました。そして、その勢いはますます増しています。自由主義諸国は2010年代半ばまで、中国の成長に対してかなり楽観的に構えていましたが、共産党指導部の姿勢は国内外で穏やかに変わることなく、習近平が国家主席として実権を固めるとともに期待とはまったく正反対のことが起きました。彼はアメリカのトランプ前大統領と同じように「チャイナ・ファースト」の偏狭的な立場を取るようになってしまったのです。
20年前の中国と今の中国を比べると、民主主義は完全に後退しました。世界的にみても、民主主義国家の数は今よりも多く、その質もずっと優れていました。民主主義勢力のリーダーであるべき肝心のアメリカでは、ますます分断が深まり、民主主義が機能しなくなったと言われています。
しかし、民主主義とは本来、それほど強固なものではない。むしろ脆弱なシステムであることは知っておいたほうがいいでしょう。もちろん民主主義のいいところは間違いを修正する能力、つまりレジリエンスがあることですが、格差是正などの手当てを何もしないでいると劣化していきます。
一方、権威主義は習近平体制下でますます堅固なものになっています。その勢いは弱まる気配がありません。まるで民主主義が退潮するのに合わせて、ロシアやトルコなどでも、権威主義が勢いを増しているかのようです。
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source : 文藝春秋 2022年4月号