「君たちはどう生きるか」ブームの意味を探る
昨年夏に発売された漫画版『君たちはどう生きるか』(原作・吉野源三郎、漫画・羽賀翔一 マガジンハウス)が170万部を突破。それに伴い、底本となった岩波文庫版や新装版も売れ行きを伸ばしており、一過性のブームを超えた社会現象となっている。
原作は、戦前の東京を舞台に、旧制中学校に通う主人公・コペル君が、帝国大学を卒業したものの定職を持たない「おじさん」から様々な教えを受けつつ、学校生活の中で抱く葛藤を通じて成長する姿が描かれている。なぜ1937年に子ども向けに書かれた本が、いまこれだけの支持を集めているのか。
昨夏、都内の中学校で原作をもとに特別授業を行ったジャーナリストの池上彰氏(67)と、原作者の長男で元日本経済新聞論説委員の吉野源太郎氏(74)が、ヒットの理由を教育の観点から探り、原作の魅力と出版当時の時代背景について語り合った。
池上 すごい大ヒットですね。私は原作を少年時代から何度も読み返してきた愛読者なので、感慨深いものがあるのですが、吉野さんはこんな状況、予想されていましたか?
吉野 とんでもない。マガジンハウスの担当編集者から2年前に「漫画にしたい」と提案された際は「バカ言うんじゃないよ。こんなカタい本、漫画にしても売れるわけないじゃないか」と企画自体に疑問符をつけたくらいです。担当者は「自分が小中学生の頃に読んだ本を自分の子どもにも読ませたいという人は多い。特に女性、お母さん方に受け入れられるはずだ」なんて説明をしていましたけどね。最終的にはOKしましたが、実はマガジンハウス社内でも企画を通すのに随分苦労したそうです。ヒットするなんて夢にも思いませんでした。
池上 私は漫画版と同時に発売された新装版の序文を書いていますが、執筆を依頼されたのは発売の2年前。承諾はしたものの、いつまでたっても発売日が決まらなかった。途中で「漫画家が苦労していて」と連絡があり、忘れたころに「ついに出ます!」と。
吉野 漫画家の羽賀さんはとても素直な青年で、原作に忠実に漫画にしてくれたと思います。ただ当初はどう漫画にすればいいのか、かなり悩んでいるようでした。私を訪ねてきて、コペル君に大きな影響を与える「おじさん」を第三者の設定にしようか……などと迷っていたので「原作通りに描けばいいじゃないか」とアドバイスしたり、「やはりハイライトはいじめのシーンじゃないか」と話をしたこともありました。そのため漫画としての独創性は弱くなったかもしれません。
池上 上級生が3人の友達に制裁を加えているのに、コペル君は助けに行かず裏切ってしまうシーンですね。漫画版は冒頭の“つかみ”にそのシーンを持ってくる工夫がなされていましたが、物語の肝である、おじさんがコペル君に宛てたノートは漫画にせずに活字のままですし、原作の愛読者も違和感なく読める仕上がりになっていると思います。
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source : 文藝春秋 2018年03月号