御製やお歌の中から浮かび上がる皇室の御日常とその想い
平成十五年に当時の和歌御用掛だった岡野弘彦さんから、「自分の退任後に御用掛をするように」とお話がありました。
私は、当時歌会始の選者となってからちょうど十年で、そろそろ後進に道を譲ろうかと思っている時期でした。年齢も八十の足音が聞こえておりましたので、重責を全うできるのか非常に悩みましたが、宮内庁の方とも相談し、悩んだ末、お引き受けすることにしたのです。
実は、年齢と共に私には心配事がありました。平成五年に歌会始の選者になった時に、私への非難がおこっていました。それは、二十代から三十代の時に歌壇の革新的な文学運動である「前衛短歌運動」に参加しており、その代表者だと思われていたからです。その頃のキャリアから考えた時に、伝統的な歌会始の選者になることに、違和感を持つ人もいたのでしょう。
岡井隆氏は昭和三年生まれの八十七歳。十八歳で斎藤茂吉が始めた「アララギ」に参加する。二十代から注目を集め、塚本邦雄氏や寺山修司氏らと共に前衛短歌運動を牽引した。代表作である、
ゆつくりと浮力をつけてゆく凧に 龍の字が見ゆ字は生きて見ゆ
をはじめ多くの作品が国語教科書に採用されている現代を代表する歌人だ。
私自身は本当のところ、和歌御用掛の仕事に相応しい人間だとは思っていません。ただ、多少自信があるとすれば、歌を作る能力とか、歌について人に意見を申し上げる能力に関しては、誰にも負けないとは思っています。もう何十年も初心者の方からベテランの人までの歌を見てきましたし、入門書も歌論書も何冊も書いていますから、歌を作る人がどういう問題にぶつかるかがわかるのです。
この職人的な技術を評価していただき、名誉な仕事に指名されたのだと思っています。
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source : 文藝春秋 2015年06月号