20世紀初頭、7つの海を支配していた英国をドイツが激しく追い上げていた。ドイツの意図は何なのか? ドイツは脅威なのか、いや、もはや敵国なのか?
1907年、エア・クロウという英国外務省きってのドイツ通の外交官が個人的「所感」をしたため、要所に送った。ドイツは欧州で覇権を追求し、その後、世界の支配を構想している。ドイツは英国にとって脅威として立ち現れてきている。もはやドイツの意図を詮索してもムダである。その能力が問題なのである。
クロウは、そのように結論づけた。
一国のパワーは意思と能力の総和として投射される。そして、そのパワーは相対的である。しかし、時に、国々のバランス・オブ・パワーが激しく変化することがある。そうした時、相手の能力をしっかり見据え、勢力を均衡させ、相手に力によって現状を一方的に変更できると思わせないようにしなければならない。今こそ、防衛力を強化する時である、とクロウは説いたのである。
平和を保つ上で最も大切なことは、抑止力を維持・発展させることである。戦わないために常に戦える備えをしておくということである。
クロウの洞察は、現在の日本にとって重要な示唆を与えている。日本に脅威を与えうる周辺国の中国、北朝鮮、ロシアのいずれも専制主義国であり、個人独裁体制を特徴としている。そのような体制においては、政策決定過程は不透明であり、意図は予測しがたい。従って、これらの国々に対しては意図よりも能力を中心に把握し、同時に、こちらの能力を的確に把握させることがなおさら重要になる。
20世紀の戦争は「総力戦」となった。経済力と技術力がモノを言うようになった。それは今も変わらない。2010年代以降、中国が経済超大国として台頭するにつれ、戦略的補助金、軍民融合、経済的威圧など経済を地政学的目的のために使い始めた。ウクライナ戦争では、ロシアと西側がエネルギーと金融を主戦場に経済制裁を繰り出した。経済力を守り、育て、必要な時にはそれを使って攻める経済安全保障政策が求められている。
有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。
記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!
初回登録は初月300円
月額プラン
1ヶ月更新
1,200円/月
初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。
年額プラン
10,800円一括払い・1年更新
900円/月
1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き
有料会員になると…
日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!
- 最新記事が発売前に読める
- 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
- 編集長による記事解説ニュースレターを配信
- 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
- 電子版オリジナル記事が読める
source : 文藝春秋 2022年12月号