出逢ったから苦しい。愛したから悲しい。
二人の男との苦悩を描き、いまもなお色褪せない代表作『夏の終り』。
91歳で辿り着いた愛の境地は——
今から五十年前、私は二人の男を同時に愛して、もだえながら生きていました。そのことを書いた『夏の終り』が新しい映画になり、スクリーンを見ていると、生々しさに圧倒されました。
『夏の終り』(女流文学賞受賞)は、寂聴さんがまだ瀬戸内晴美であった頃の私的体験を元にした小説である。二人の男との間で愛の迷いにゆれる女の生き方が共感を誘い、一九六三(昭38)年の上梓以来、半世紀をへてなお版を重ね、今回は二度目の映画化(熊切和嘉監督)となった。染色の仕事で自立した女、相澤知子を演じるのは満島ひかり。小杉慎吾(小林薫)のモデルが作家の小田仁二郎なのは知られているが、年下の男、木下涼太(綾野剛)にも実在のモデルがある。
小林さんと、対談のお仕事でお会いしたの。驚いたわね。映画の中では手の動き、仕草、表情とか、慎吾のモデルになったあの人と瓜二つで、気持ち悪いくらいだったのに、実際の小林さんはちっとも似ていない。なんなんでしょう、あれほど似せられるというのは。小林さんにそう言いますと、ただ笑ってらっしゃるだけで。
この小説、それこそ夏の終りが近づくたびに増刷がかかるんです。社会における女の地位も、性に対する考え方も、五十年前とはまるでちがって、今の娘(こ)たちって、ほんとに同じ地球人? と思わせるくらい。わが寂庵のスタッフの中に二十代の魅力的な女性がいますが、彼女たちの話では、「いま初体験は中学から始まる。高二くらいでまだ経験ない、よっぽど魅力がないんじゃないか」ってバカにされるそうですよ。
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source : 文藝春秋 2013年09月号