「寂庵」を拠点に、作家・僧侶として多くの人に親しまれた瀬戸内寂聴(1922〜2021)。秘書として寄り添ってきた瀬尾まなほ氏が、在りし日の思い出を綴る。
瀬戸内がこの世を去ってから1年1カ月が経ちました。10年間、お互い最も時間を共に過ごした相手だと思います。こんなに長い間会えていないことが不思議でたまりません。
私が休むたび、「まなほはいつもいない。休んでばかり」と、私の不在に文句を言っていました。1日休んだ翌日に出勤すると、「久しぶり」と言われる始末。一般企業に勤める人たちが休みを満喫しているのを羨ましく思うこともありました。
何十回もお願いし、やっと許可を得た海外旅行。いつでも連絡がとれるようにと、2日に1回は電話をかけていました。帰国直前に体調を崩してしまうと、「ざまーみろ」と言われ、「ひどい! 尼さんが言うことか!」と言い返したことも。そうはいっても、どうしているか気になって仕方がないのは、私の方でした。
瀬戸内は私たちスタッフにもとても優しく、よくしてくれました。上京先でハードなスケジュールをこなした瀬戸内は、「まなほ、疲れたでしょう。ゆっくり休んで」と、まず気にかけてくれました。瀬戸内はその後、一人、締め切り原稿を書き上げるのです。誰よりも気がつき、気を配れ、人を喜ばせるサービス精神に優れていました。だから皆、瀬戸内のことが好きで、いつも人に囲まれていました。
秘書として困ったことは、何かあると私のせいにすることでした。「まなほが言った」なんて事実無根のことを言われると、「どこかの政治家みたく秘書のせいにしないでください」と私は言い返し、そうやって私がムキになって怒るのを瀬戸内は楽しんでいました。
いつでも目に浮かぶのは、瀬戸内の笑顔。どうにかして笑顔を引き出したくて、いつも試行錯誤していたと思います。喜んでほしい、笑ってほしい、と思う人が今はもういない、そのことがとても寂しいです。
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source : 文藝春秋 2023年1月号