「情報」に振り回される日本政府。米国は明らかに苛立っていた
2011年3月11日午後2時46分。警察庁が入る中央合同庁舎二号館は、大きく撓(しな)るように揺れた。20階の外事情報部長室の壁や棚から、各国の治安・情報機関から贈られた数十枚のメモリアル・プレートが全て床に投げ出され、飛散した。私が体験した東日本大震災発震の瞬間である。21階のオペレーションルームに回り階段で駆け上がると、既に警察庁総合対策室が設置され、災害発生直後の喧騒が部屋を覆っていた。そして、56分後の午後3時42分、東京電力福島第一原子力発電所の1〜4号機で全交流電源喪失の一報が入る。現実のものとなる最悪の事態が対策室全体に暗い影を投げかけていた。
震災による原発事故発生の翌12年2月、後に我々の情報交換協議のカウンターパートとなる米国原子力規制委員会(NRC:Nuclear Regulatory Commission)は、発災当時に行われた部内の電話協議の様子を公表した。そこには発災立ち上りの情報欠缺(けんけつ)への強い苛立ちが繰り返し綴られている。
NRC職員「……情報が少なすぎる。われわれの見立てでは、発電所で最悪の損傷が起き始める。おそらく早くて真夜中(米東部時間)ごろからかもしれない」
グレゴリー・ヤツコNRC委員長「裏付けが取れるか」
NRC職員「事故情報は通信社の報道ベースだ。GE(注:ゼネラル・エレクトリック社、福島第一のBWR型原子炉製造会社)も、われわれ以上の情報がないと思う」
ヤツコ委員長「コミュニケーションミスだ。情報が入ったら、紙に書く。何を知っていて、知らないのか、すぐチェックできる。それに、情報共有を迅速にすることだ」
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source : 文藝春秋 2023年2月号