炎上が怖くて小説が書けるか

炎上と分断を超えて

島田 雅彦 作家
ニュース 社会
島田雅彦氏

 私の著作歴は今年で40年になるんですが、デビュー当時、自分の父親ぐらいの年の編集者に「顰蹙は金を出してでも買え」と言われたことを覚えています。要は「話題になる」というのは、世論に賛否両論を巻き起こすことで、その賛否の割合は相撲でいえば、9勝6敗とか8勝7敗ぐらいが「ちょうどいいんだ」と。当時は「ずいぶん大人だな」と思ったものですが、今ではその意味がよくわかります。

 2022年3月、『パンとサーカス』という小説を上梓しました。これは無能な首相による悪政を「世直し」するために、主人公が要人暗殺を決行する内容です。安倍元首相の銃撃事件を「予言した」と騒がれ、さらに本の宣伝を兼ねてネットメディアに書いた原稿が「炎上」しました。例えば

〈殺された安倍元首相は顕彰すべき功績などほとんどなく、無駄に最長在任記録を作っただけで、その間に民主主義と経済を破壊した〉

 といった一節がいわゆる「ネトウヨ」の人たちを刺激したのだと思います。

 著作家として一番困るのは、作品が黙殺されることです。おざなりな批評が出ただけで重版もなく書店から消えていくのが最悪で、いっそ炎上して話題になった方がマシだと考えます。カッコよく言えば「炎上が怖くて小説など書けるか」というわけですが、炎上は暴力を誘発する。言論で生きていく選択をした時点で、襲われても致命傷を避け、筆を決して折らず、自己規制もしない覚悟は決めているわけです。

©iStock

 かくいう私も、自分がリベラルで人権派でマイノリティ擁護のスタンスにあることを自ら喧伝することに実は居心地の悪さはあります。いわば「正論」を言い続けることの決まりの悪さといってもいい。

 例えば、ここ50年で女性に対するセクハラや暴力が減ったのは事実で、そうである以上、その闘いは継続すべきだし、応援すべきだと思います。

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source : 文藝春秋 2023年2月号

genre : ニュース 社会