黒川問題を逆手に局面打開を狙う安倍

赤坂太郎

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月刊「文藝春秋」の名物政治コラム「赤坂太郎」。コロナ禍に加えて黒川辞任――追い込まれた安倍は「解散」をチラつかせる

「コロナの時代の新たな日常を1日も早く作り上げなければなりません」

 全国を対象とした緊急事態宣言を5月末まで延長すると表明した同月4日の記者会見で、初めて安倍晋三首相が「新たな日常」との言葉を使った。以来、再三にわたり言及。「新たな日常」は、政府の専門家会議が長丁場の感染拡大に備えて具体策を提言した「新しい生活様式」にちなみ、安倍周辺が用意した言葉だ。コロナ対策の評判が芳しくなく内閣支持率の低落傾向にあえぐ安倍のお気に入りフレーズとなった。安倍周辺は「新たな局面を迎えているとの色彩を帯びた言葉で、政権の手詰まりを覆い隠すのにうってつけだった」と推し測る。

 長期政権を支えてきた経済成長は底割れし、8月発表の4~6月期GDPは戦後最悪の落ち込みが予想される。6月に成立を目指す第二次補正予算案も「予定ではコロナ対策の応急手当ばかりで、景気を刺激するには至らない」(財務省幹部)見通しで、さらなる対策が必要になってくる。だが「国会がなければ野党の批判を浴びない」(与党国対)と考える安倍は、コロナ対策に専念との名目で国会を延長せず、6月17日の会期末で閉じる考えだ。第三次補正予算案は秋の臨時国会以降で、効果が出るのは年末になる。

 コロナ「第二波」の懸念もある。「第二波がきたら政権がもたなくなる」。5月12日、首相公邸に安倍を訪ねた盟友の衛藤晟一沖縄北方担当相がそう忠告したが、安倍は「ある程度覚悟しておかなければ」とつぶやくだけだった。政権の経済政策をけん引してきた最側近の今井尚哉首相補佐官も「ここは我慢の時です」と言うばかりで、早期のV字回復策を示せない。

 手詰まりとなった安倍は「新たな日常」を度々用いるようになる。同時に、野党への配慮を見せる。5月11日の衆参両院で行われた予算委員会。困窮する学生支援や事業者への家賃支援を巡って野党案を説明する国民民主党の玉木雄一郎代表らに「いただいたご提案を踏まえ、与野党でしっかり議論していきたい」と、いつになく丁寧に応じた。二次補正に盛り込む追加経済対策を立憲民主党と協議するよう岸田文雄政調会長に指示もした。

「新たな日常」を繰り返した14日の記者会見では、得意の「政治決断」を封印し、宣言の一部解除は科学的基準に基づく判断だと強調。だが内実は政府に先駆け休業要請などの解除基準を打ち出した大阪府の吉村洋文知事らに追随したに過ぎない。「なぜ吉村が評価されているのか分かっているのか。厳しい状況の時こそ、リーダーは強い意志と果断さを示さないといけないのに」。安倍と親しい閣僚経験者は「一強」らしからぬ安倍の姿に不安を隠せなかった。

「黒川問題」で世論を読み誤る

 だが、検察幹部の定年延長を盛り込んだ国家公務員法改正案が今国会成立断念に追い込まれたことで、皮肉にも「安倍らしさ」が呼び起こされる。以降、安倍は「次なるステージ」という言葉を多用するようになった。

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source : 文藝春秋 2020年7月号

genre : ニュース 社会 政治