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刑務所で「臭いメシ」を食べてきました

編集部日記 vol.41

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 28年の人生で初めて、私は刑務所で「臭いメシ」を食べました。

 昨年11月、杉良太郎さんの連載「人生は桜吹雪」を担当する私は、特別矯正監として刑務所の視察を行う杉さんを取材すべく、福島刑務所に向かいました。この日の杉さんの主な任務は刑務官への訓育指導でしたが、最後に受刑者にどのような食事を出しているのか検食するため、「臭いメシ」が出されることになっていました。

「臭いメシ」と聞いて思い出されるのは、東映映画『暴動島根刑務所』でのワンシーン。殺人で収監されたばかりの“新入り”松方弘樹が、無期懲役囚の田中邦衛に刑務所の食事のお作法を教わるシーンです。見るからにボソボソで黄ばんだご飯に、具のほとんど入っていない、湯気も立っていないお味噌汁。おかずは小指ほどの小魚一尾と大根のようなものがちんまり。先輩である田中が、これをどう食べれば満腹感を得られるか、松方に指南します。

 ちなみに『暴動島根刑務所』の前作となる『脱獄広島殺人囚』では松方がネズミの這う床にぶちまけられたご飯を犬食いするシーンも出てきますが、とにかくこのシリーズに出てくる「臭いメシ」は不味そう。こんな食事しか食べられない刑務所には絶対に入りたくないと思ったものです。

 もちろん現実社会では、こんなひどい食事を出す刑務所があるとは思っていませんでしたが、どんな食事がだされるのか、密かに楽しみにしていたのでした。

 視察と刑務官への訓育指導を終えた杉さんに、この日、実際に受刑者たちが口にする食事と同じものが出されました。メニューは麦ごはん、すき焼き風煮、からしあえ、桜漬け、黄桃。

 

 臭いどころか、部屋にはすき焼き風煮の出汁の香りがほんのりと漂い、彩りも鮮やか。お肉もしっかりと入っています。「結構いいもの食べられるんだな……」と感心していると、杉さんに促され、私たち取材班も試食できることになりました。

 恐る恐る口に運ぶと、牛肉のうまみと出汁が広がります。薄味ではあるものの、普段自分で作る料理よりもおいしく、健康的。今回取材した福島刑務所は男性受刑者が収監されていますが、量も申し分なく、これなら「出たくない」と言う人もいるのでは、と思ってしまうほどでした。

 最後に、60年以上刑務所の慰問・視察を続けている杉さんが、刑務所の食事がなぜ「臭いメシ」と呼ばれているのか教えてくれました。

刑務官へ訓育指導を行う杉さん

「昔は7割が麦、3割が米の麦飯で、米の保存状態が悪いから虫が混ざっていた。炊くと虫の死骸が臭うから、“臭いメシ”と言われていた。それに、昔は刑務所自体も臭かった。今の食事は美味しくなったよ」

 今年で80歳になられる杉さん。ひと言ひと言に含蓄があります。受刑者と日々接している現場の職員への訓育指導も、物凄い迫力。その姿は、まるで現代社会に舞い降りた遠山の金さんそのものでした。

「文藝春秋」3月号の「人生は桜吹雪 最終回」では、こうした福島刑務所視察の様子や、今年元日に発生した能登半島地震の被災者への支援、「筋金入りのお方ね」と美智子さまに声を掛けられたというベトナムでの活動など、杉さんの半世紀以上におよぶ福祉活動の軌跡を掲載しています。

 文藝春秋公式YouTubeチャンネルでは、杉さんの福島刑務所視察の様子を動画で公開しています。ぜひあわせてご覧ください。

(編集部・天羽)

source : 文藝春秋 電子版オリジナル

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